・・・すると、官僚は、妙な笑い声を交えながら、実に幼稚な観念語(たとえば、研究中、ごもっともながらそこを何とか、日本再建、官も民も力を合せ、それはよく心掛けているつもり、民主々義の世の中、まさかそんな極端な、ですから政府は皆さんの御助力を願って、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・貴作ニツキ、御自身、再検ネガイマス。真偽看破ノ良策ハ、一作、失エシモノノ深サヲ計レ。「二人殺シタ親モアル。」トカ。 知ルヤ、君、断食ノ苦シキトキニハ、カノ偽善者ノ如ク悲シキ面容ヲスナ。コレ、神ノ子ノ言。超人説ケル小心、恐々ノ人ノ子、笑イ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・われは隣組常会に於いて決議せられたる事項にそむきし事ただの一度も無之、月々に割り当てられたる債券は率先して購入仕り、また八幡宮に於ける毎月八日の武運長久の祈願には汝等と共に必ず参加申上候わずや、何を以てか我を注意人物となす、名誉毀損なり、そ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・世は滔々として民主革命の行われつつあり、同胞ひとしく祖国再建のため、新しいスタートラインに並んで立って勇んでいるのに、僕ひとりは、なんという事だ。相も変らず酔いどれて、女房に焼きもちを焼いて、破廉恥の口争いをしたりして、まるで地獄だ。しかし・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・大戦中もへんな指導者ばかり多くて閉口だったけれど、こんどはまた日本再建とやらの指導者のインフレーションのようですね。おそろしい事だわ。日本はこれからきっと、もっともっと駄目になると思うわ。若い人たちは勉強しなければいけないし、あたしたちは働・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・そういう場合に債権者は債務者の不意を襲うてその身辺に円を画く。すると後者はその債務を果たすまでその円以外に踏み出す事が出来ない。もし出れば死刑に処せられる。 こういう法律は今日では賛成者が少なそうに思われる。債務者の方が多数だから。・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・しかし幸か不幸か債権者の大部分はもうどこにいるか分らない。一巻の絵巻物が出て来たのを繙いて見て行く。始めの方はもうぼろぼろに朽ちているが、それでもところどころに比較的鮮明な部分はある。生れて間もない私が竜門の鯉を染め出した縮緬の初着につつま・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・門の前には竹矢来が立てられて、本堂再建の寄附金を書連ねた生々しい木札が並べられてあった。本堂は間もなく寄附金によって、基督新教の会堂の如く半分西洋風に新築されるという話……ああ何たる進歩であろう。 私は記憶している。まだ六ツか七ツの時分・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・ 本誌の、この号には食糧問題、労働問題、法律上の諸問題、生活再建の市民的技術上の問題、再婚問題、産児制限の諸問題が、特輯として扱われている。 これらの題目のうちで、過去二十年間、日本の婦人雑誌が扱ったことのないというトピックが、只の・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・まったく個人的にまもられ、まったく個人の努力で営まれているわれわれの一つ一つの家庭、しかも戦争の間暴力的な権利でそれをちりぢりばらばらに壊されてしまっていた家庭、それを今日インフレーションの中で再建してゆく努力は、男も女も互にくらべてみれば・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
出典:青空文庫