・・・』 王様が泣きながら怒鳴る前で、宰相は、これもまた涙をこぼしながら、『陛下、恐れながら、耳殻のございました時分、我々の憐れむべき国民は、一度の戦に負けたこともございませんでした』と云って、お辞儀をした」 この話を貴女は、どう・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 芸術家としては最小抵抗線を行くものであるツルゲーネフのこの態度が、血気旺なトルストイを焦立たせたということは、実によくわかる。ツルゲーネフがヴィアルドオ夫人やその夫と共にパリの客間で「スラヴ人の憂愁」について語っていた時分、十歳年下の・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 嘗つて、婚約者と結婚をし得る、最少限でも希望があった間は、彼女にとって孤独な生活も、前途に何等の陰をつけませんでした。僅かの給料を唯一の資力として微に支えられて行く生活も、いざと云う時、後で手を延して呉れる者が在る間は凌ぎ得ない苦痛で・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・プロレタリア文学が運動としての形を失っているからと言って、プロレタリア文学の作品の実質が、最少抵抗線に沿った目安で評価されてよいものであろうか。「希望館」という一篇の小説は私にさまざまの疑問を与えた。 作者は「希望館」という一つの保護施・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・しかし、本当に文学を愛し、新しい小説を生み出してゆきたいとねがうわたしたちとしては、この最少抵抗線に甘んじることはまちがっている。われわれは、自分としてしんから書きたいものを、どのように書いてゆくかということに課題の中心をおきかえて努力して・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・漱石の主観の裡では、一箇の人間として宰相と同等である自我、専門とする文学の領域においてはその分野における権威者として自己を主張した気概が窺われるのである。 然しながら、漱石が、人間性のより高さへの批判をもって観察した現実の自我は、社会の・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 主権在民ということは、最少限に考えて、人民自身が、行政、司法、立法の全権を有すという意味であろうし、議会の権能も、当然人民の内から選ばれた代表――議員によって掌握されなければならないものだろう。 この草案の発表された三月七日の新聞・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・精進の気遽に高まり、岡本市太郎氏夫妻から最少限度の生活費を十ヵ月間恩借。すべてを勉強に打込む。傍らストリンドベリイの「死の舞踊」を翻訳し、洛陽堂から出版。 一九一七年。舞台協会の監督となって武者小路の「その妹」を演出する。この年結婚した・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・其故、上へ上へと積上げた空間のそのまた平面を、最少限の面積で、最大限の能率に活かすアパートメント経営者の、才覚にほかなりません。そういう人間用の巣箱を「わが家」と呼んで、近代社会の何千万人が、せせこましい、律気な、名のない大衆としての生活を・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
・・・日本の権力は、一方資本主義化の諸悪を社会に発生させつつ、資本主義国の進歩的な面は、最少にしか実現して来なかったのである。今日この点を改めてとり上げてみるならば、第一日本の総人口の九割迄の人々は、一生を働き通して、しかも伝えるものとては借金以・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫