・・・多川の昔を今に、どうやら話せる幕があったと聞きそれもならぬとまた福よしへまぐれ込みお夏を呼べばお夏はお夏名誉賞牌をどちらへとも落しかねるを小春が見るからまたかと泣いてかかるにもうふッつりと浮気はせぬと砂糖八分の申し開き厭気というも実は未練窓・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・星野君の家は日本橋本町四丁目の角にあった砂糖問屋で、男三郎君というシッカリした弟があり、おゆうさんという妹もあり兄弟挙って文学に趣味を持つという人達だったから、その星野君が女学雑誌から離れて、一つ吾々の手で遣ろうではないかという相談を持ち出・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・「あのね、谷崎潤一郎がね、僕の青ヶ島を賞めていたそうだ。佐藤さんがそう云ってた。」「うれしいですか。」「うん。」 私には不満だった。 第三巻 この巻には、井伏さんの所謂円熟の、悠々たる筆致の作品三つを・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・それに、このごろ、涙もろくなってしまって、どうしたのでしょう、地平のこと、佐藤さんのこと、佐藤さんの奥様のこと、井伏さんのこと、井伏さんの奥さんのこと、家人の叔父吉沢さんのこと、飛島さんのこと、檀君のこと、山岸外史の愛情、順々にお知らせしよ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・いつでもお相手するが、しかし、君は、佐藤春夫ほどのこともない。僕は、あの男のためには春夫論を書いた。けれども、君に対しては、常に僕の姿を出して語らなければ場面にならないのだ。君は、長沢伝六と同じように――むろん、あれほどひどくはないが、けれ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・の船というのであったか、赤い星というのであったか、とにかくそんな名前の童話雑誌に出ていた、何の面白味も無いお話で、或る少女が病気で入院していて深夜、やたらに喉がかわいて、枕もとのコップに少し残っていた砂糖水を飲もうとしたら、同室のおじいさん・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ 帰って暫くすると、早大の佐藤さんが、こんど卒業と同時に入営と決定したそうで、その挨拶においでになったが、生憎、主人がいないのでお気の毒だった。お大事に、と私は心の底からのお辞儀をした。佐藤さんが帰られてから、すぐ、帝大の堤さんも見えら・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・ 太宰イツマデモ病人ノ感覚ダケニ興ジテ、高邁ノ精神ワスレテハイナイカ、コンナ水族館ノめだかミタイナ、片仮名、読ミニククテカナワヌ、ナドト佐藤ジイサン、言葉ハ怒リ、内心ウレシク、ドレドレ、ト眼鏡カケナオシテ、エエ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・男と女が、コオヒイと称する豆の煮出汁に砂糖をぶち込んだものやら、オレンジなんとかいう黄色い水に蜜柑の皮の切端を浮べた薄汚いものを、やたらにがぶがぶ飲んで、かわり番こに、お小用に立つなんて、そんな恋愛の場面はすべて浅墓というべきです。先日、私・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ 改造十一月号所載、佐藤春夫作「芥川賞」を読み、だらしない作品と存じました。それ故に、また、類なく立派であると思った。真の愛情は、めくらの姿である。狂乱であり、憤怒である。更に、 寝間の窓から、羅馬の燃上を凝視して、ネロは、黙し・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
出典:青空文庫