・・・未組織の文学愛好者、特に婦人の間に多くの読者をもっている三上於菟吉、直木三十五などというブルジョア作家たちは手をつないで軍部の雇作家になった。 われわれ婦人大衆はブルジョア地主の利益を守るためにだけされる帝国主義侵略戦争には絶対反対だ。・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ 国内における文化統制の具体化は、国際文化振興会の成立以前、既に前年松本学氏が警保局長であった当時、故直木三十五氏や三上於菟吉、佐藤春夫、吉川英治諸氏と提携して「文芸院」設立を目論んだ時から端を発している。当時、既に正宗白鳥氏その他が現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・このことは、市場としてのジャーナリズムの上をほとんど独占しているかのように見える、直木三十五などを筆頭とする大衆文学と陸軍新聞班を中心として三上於菟吉などがふりまくファッシズム文学とに対抗してあげられたブルジョア純文学作家たちの気勢であった・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 間が悪いほど、自分の娘の世話になって居る礼を書き連ねてから、縁が有って斯々の処へきめたから近々参上してくわしい事は申しあげ改めてお暇をいただきたいと云ってよこした。 その手紙が来てから六日ほどして父親はほんとうに千世子の家へ来た。・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・しかも日本・イタリー・ドイツのように三国連盟して、東洋と西洋の平和を攪乱したファシズム権力に引まわされた国々の人民生活の惨状は改めていうまでもありません。第二次大戦はファシズムの非人間性と狂暴な破壊性についておそろしい教訓を与えました。近代・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・八〇年代の農奴制度の偽瞞的な廃止やその後に引きつづいて起った動揺に対して行われた弾圧のために消極的になった急進的な若い分子は、この饑饉の惨状の現実をモメントとして民衆悲惨の問題を再びとりあげて立った。ゴーリキイがまだ二十一歳ぐらいでニージュ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・と云う啖呵文を読売紙上に発表して、三上於菟吉と共に民間ファッショの親玉として名乗りを揚げた。これは却々興味ある一つの出来事だ。直木三十五は持前のきかん気から中間層のインテリゲンチャが、ファッショ化と共に人道主義的驚愕を示し然も自身では右へも・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・ 支配階級とともに急速にファッショ化したのは、大衆作家直木三十五や三上於菟吉ばかりではない。川端康成もこの「抒情歌」で、ファッシズムのために道をひらく危険にさらされている。 そういうと、びっくりして抗議する者があるかもしれない。おい・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 浦和、蕨あたりからは、一旦逃げのびた罹災者が、焼跡始末に出て来る為、一日以来の東京の惨状は、口伝えに広まった。実に、想像以上の話だ。天災以外に、複雑な問題が引からまっているらしく、惨酷な〔二字伏字〕の話を、災害に遭って死んだ者の他につ・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・市街戦の惨状が野戦よりはなはだしいと同じ道理で、皿に盛られた百虫の相啖うにもたとえつべく、目も当てられぬありさまである。 市太夫、五太夫は相手きらわず槍を交えているうち、全身に数えられぬほどの創を受けた。それでも屈せずに、槍を棄てて刀を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫