・・・ 日本の歴史は、惨憺たる進歩性の敗退の跡を示している。明治維新によって、名目上の民権が認められ、新しい日本を建設しようという希望に燃えた一団の人々は明治十四年自由党を結成した。有名な中島湘煙が十九歳で政談演説を行い、婦人政治家として全国・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・人間ぬきの自然美を讚歎して描く。「農村にだけほんとのロシアがのこっている」という考えかたは、農民作家共通のものと云えた。 一九三〇年の或る秋の日のことである。わたしは、ソヴェトのいろんな作家団、劇作家団が事務所をもっている「ゲルツェンの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・るのでなくて、一箇の芸術家は自分の才能をどのように生かして来たかどんな力ととり組み自身の矛盾ととりくんで来たかというその突き入るような分析、綜合、生きた人その人がそれをよんでああ自分は斯うであったかと三歎するようなもの、そういうものをつくる・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・までつよく生きさせる可能を与えている一方に、なおこのような小説をパール・バックにさえかかせるような女としての苦悩の要因をふくんだ習俗におさえられている社会であること、女に生れたことをくやむ言葉が女への讚歎として男の唇から洩されるようなおくれ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・という興味ある小説の中で二十二歳の婦人作家カースン・マックカラーズが描き出しているような惨澹たる生を負っている。ジョセフィン・ベイカア一人、コティの翼にのって一度は栄華の空を翔んだとして、ニグロの女として彼女の運命の本質は些も改善されなかっ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ こういう惨澹たる日本の現実は、十何年かの昔、日本文学の発展途上に提起されていたいくつかの重要な課題について、その後今日まで、一度もまともにとりあげ話しあう折を与えずにきた。研究し、討議され、なっとくを深める機会を得ずにきている。日本の・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・其故、内容を深く知らない人達はこちらの職業婦人と申しましても、概して工場事務所、商店等に働く婦人が、外面的の労働時間と衛生規則は完全であっても、その物質慾に刺戟されて如何に惨憺たる生活を営んで居るかと云うことも御分りになりますでしょう。流行・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ソヴェトの偉業にたいする讚歎の情があればこそ、ソヴェトが彼に希望することを許したものがあればこそ強まる彼の批評精神によって「ソヴェトによって実現された事業は十中の八九まで実に称讚に価する」のであるが、のこる十分の一に示されていると彼が感じた・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・だが、キュリー夫人へのその讚歎をそれなりすらりと日本の現状にふりむけてみて、そこにある日本の婦人科学者の成長の可能条件の可否に即して真面目に考えた人たちは果して何人在っただろう。フランスであったからこそ、キュリー夫人が女で科学者であるという・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・苦しく、いきどおろしい人間理性否定の暗黒がすぎて、明るい光のさしそめるときになったが、過去十数年の惨澹たる傷あとは、日本の知性の上から、そう急に消え去らない。日本の現代文学の苦痛は、こんなに急なテムポで世界の歴史は前進しているのに、戦争中萎・・・ 宮本百合子 「序(『歌声よ、おこれ』)」
出典:青空文庫