・・・ 武家時代に入ってからの婦人の生活というものは実にヘレネ以上の惨憺たるものであった。女性は美しければ美しいほど人質として悲惨だった。人質としてとられ、又媾和的なおくりものとして結婚させられる。戦国時代の婦人達の愛情とか人間性というものが・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・を読んだ人は覚えているであろう。若き日の露伴が、小石川の小さい池のある一葉の住居を訪ねて行ったことがあったのを。「露団々」の作者として当時既に名の高かったこの青年作家は鴎外とともに「たけくらべ」を讚歎して、小説の上手くなるまじないに、「たけ・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・更に心をうたれるのは、日本文学のこの惨憺たる事実が、文学者自身の問題として十分自覚さえもされていないように見えることである。 文学は本質において一つのたつきの道ではない。私たち総てが、この数年来経つつある酸苦と犠牲とを、新しい歴史の展開・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・それがはじまりでこの人の一生は惨憺たるものとなった。祖母は、不良少年のようにしてしまった発端における自分の責任は理解出来ないたちの人であったから、やくざになった一彰さんばかりを家名ということで攻めたてた。親族会議だとか廃嫡だとか大騒ぎをした・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・学者たちが示したおどろくべき文学精神の喪失は、日本の野蛮な権力による文化圧殺の結果として見られるものであるけれども、兇悪な権力が出版企業と結合して、薄弱な日本文化・文学を底から掘りかえして来た過程は、惨憺たるものがある。「春桃」一巻は、・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・戦敗後のインフレーションと食糧危機に当って、その国の無産婦女子の生活が惨憺たるものにならなかった例は、ほとんど皆無であることを。 さらに、世界の現実は、はっきりと示している。一般失業問題が深刻化して来ると、その中でも女子失業者の日々は実・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・翌々年に膵臓膿腫を患い、九死に一生を得たときも、母が讚歎したのはやはりその力であった。母は、彼女を生かし、楽しますために周囲の人々が日夜つくしている心づかいや努力を、そのものとして感じとり評価する能力は失ってしまっていた。母が家庭の中で自分・・・ 宮本百合子 「母」
・・・芸術を愛する程の者ならば、村山氏に、芸術以前の形で分裂のままあらわれているこの矛盾をこそ、人間的なものとして讚歎しなければならない義務を負うているのであろうか。 小説というものには、小説としての美が要求される。これは明らかなことである。・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・が一人の父として、燦きのある暖い水のように豊富自由であり、相手を活かす愛情の能力をもち、而もそういう天賦の能力について殆どまとまった自意識を持たなかった程、天真爛漫であった自然の美しさについて、心から讚歎を禁じることの出来ないのは恐らく我々・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・同時に、彼等が、平常思い切って出来ないことでも平気でやるほど女まで大胆になり、死を恐れない有様が、惨澹たる気持を与えた。一つとして、疲労で蒼ざめ形のくずれていない顔はないのに、気が立っている故か、自暴自棄の故か、此方の列車とすれ違うと、彼等・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫