・・・ ギンは、がっかりして、牛をつれてしおしおと家へかえりました。そして、母親にすべてのことを話しました。母親は女の言った言葉をいろいろに考えて、「やっぱり、かさかさのパンではいやなのだろう。今度は焼かないパンをもってお出でよ。」と、お・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・店先へ来ている間も死んだ犬と同じ毛色の犬がとおりかかると、いそいでとび出して、じろじろ見ていますが、間ちがったとわかると、さもがっかりしたように、しおしおとひきかえして来ます。 犬はその後、だんだんにやせて元気がなくなって来ました。出て・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・覗いたという後悔からの気おくれが、僕をそんなにしおしお引返えさせたらしいのだ。家へ帰ってみると、ちょうど来客があって、そのひとと二つ三つの用談をきめているうちに、日も暮れた。客を送りだしてから、僕はまた三度目の訪問を企てたのである。まさかま・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ポチは、おのれの醜い姿にハッと思い当る様子で、首を垂れ、しおしおどこかへ姿を隠す。「とっても、我慢ができないの。私まで、むず痒くなって」家内は、ときどき私に相談する。「なるべく見ないように努めているんだけれど、いちど見ちゃったら、もうだ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・主人はだまってしおしおと沼ばたけを一まわりしましたが、家へ帰りはじめました。ブドリも心配してついて行きますと、主人はだまって巾を水でしぼって、頭にのせると、そのまま板の間に寝てしまいました。するとまもなく、主人のおかみさんが表からかけ込んで・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・さあ、そこでクねずみはすっかり恐れ入ってしおしおと立ちあがりました。あっちからもこっちからもねずみがみんな集まって来て、「どうもいい気味だね。いつでもエヘンエヘンと言ってばかりいたやつなんだ。」「やっぱり分裂していたんだ。」「あ・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・神学博士がまたしおしおと壇に立ちました。そしてしょんぼりと礼をして云ったのです。「諸君、今日私は神の思召のいよいよ大きく深いことを知りました。はじめ私は混食のキリスト信者としてこの式場に臨んだのでありましたが今や神は私に敬虔なるビジテリ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 失敗した計画が、しおしおとうなだれて行くあとについて、これこそ自分の一生を通じてするべき仕事だと思われた確信が、淋しい後姿を見せながら、今までより一層渾沌とした、深い深い霧の海の中へ、そろそろと彼の姿を没してしまうのばかりが見られる。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 一二秒、立ち澱み、やがておつやさんは、矢絣の後姿を見せながら、しおしお列を離れて、あちらに行った。 彼女は素直に、顔を洗いに行ったのだ。 暫くして、皆席についてしまってから、水で、無理に顔をこすったおつやさんは、赤むけになった・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・そして、自分も大望を抱いて東京へ飛出しは飛出しても、半年位後にはやせてしおしおと帰って来るか、帰るにも帰れない仕儀になったものは諸々方々に就職口をさがしあぐんだ末、故郷の人に会わされない様なみじめな仕事でも、生きるためにしなければならなくな・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫