・・・及び芭蕉の諸作や志賀直哉氏の一二の作に於けるが如く、またニイチェの「ツァラツストラ」に於けるが如し。此の故に一つの批評にして、もしその批評が深き洞察と認識とを以ってわれわれを教養するならば、それは作物のみとは限らず批評それ自身作物となって高・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・また彼は美術史家のように、ただ古美術の遺品をのみ目ざして旅行するのでもない。彼は美しいものには何ものにも直ちに心を開く自由な旅行者として、たとえば異郷の舗道、停車場の物売り場、肉饅頭、焙鶏、星影、蜜柑、車中の外国人、楡の疎林、平遠蒼茫たる地・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・ 食事をしながら、漱石は志賀直哉君の噂をした。確かそのころ、漱石は志賀君に『朝日新聞』へ続きものを書くことを頼んだのであったが、志賀君は、気が進まなかったのだったか、あるいは取りかかってみて思うように行かなかったのだったか、とにかくそれ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫