・・・……嫁御はなるほど、わけしりの弟分の膝に縋って泣きたいこともありましたろうし、芸妓でしくじるほどの画師さんでございます、背中を擦るぐらいはしかねますまい、……でございますな。 代官婆の憤り方をお察しなさりとう存じます。学士先生は電報で呼・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ しかし、それはそれとして、今度の計画はうまく行くかな、やりしくじると困るんだ。…… そこへ親爺が残飯桶を荷って登って来た。「宇平ドンにゃ、今、宇一がそこの小屋へ来とるが、よその豚と間違うせに放すまい、云いよるが……。」と、親爺・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・今度の仏像は御首をしくじるなんと予感して大にショゲていても、何のあやまちも無く仕上って、かえって褒められたことなんぞもありました。そう気にすることも無いものサ。」と云いかけて、ちょっと考え、「いったい、何を作ろうと思いなすったのか、・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・わざとしくじる楽しさを知れ。キミガ美シキ失敗ヲ祝ス。ホントニ。ひとり恥ずかしく日夜悶悶、陽のめも見得ぬ自責の痩狗あす知れぬいのちを、太陽、さんと輝く野天劇場へわざわざ引っぱり出して神を恐れぬオオルマイティ、遅疑もなし、恥もなし、おのれひとり・・・ 太宰治 「創生記」
出典:青空文庫