『新日本文学』に「町工場」という小説を発表した小沢清という若いひとが、「軍服」という小説をかいた。小沢清は勤労者の生活をしながら小説をかくようになった青年である。 まだ試作というべき作品であるが、「町工場」は、へんに凄ん・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・ 麦を煮る、わらを切る、草をかう○前の田を寺からかりて試作する。肥料の。「あの肥料をつかってこないよう出来たと見せようちゅうところの」 苅ったところで達治とキャッチボール○多賀さんの山 が右手 寺の山 左手 むこう・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ 第四号に作家論を書いている三人の新しい評論家たちは、もとより自分の書きたいと思う作家を自由に研究題目としているのですが、注目されることは、このつつましい試作三つともが、作家論というものはどういう方法によるのが最もその作家の真実に肉迫し・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・『若菜集』の序のうたに、藤村は自分の詩作を葡萄の実になぞらえている。この一巻に収められている「草枕」「あけぼの」「春は来ぬ」「潮音」「君がこゝろは」「狐のわざ」「林の歌」等いずれも、自然にうち向かって心を傾け物を云いかけ、人か自然か自然・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ ――誰でも自分自身のことは最もよく知っている。そして最も知らないのはやはり自己である。「汝自身を知れ」という古い語も、私には依然として新しい刺激を絶たない。 思索によってのみ自分を捕えようとする時には、自分は霧のようにつかみ所がな・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・彼は応仁乱後数年まで生きていたのであり、『樵談治要』なども乱後に書いたものであるが、しかし彼が新しい時代に対して抱いたのはただ恐怖のみであって、新しい建設への見通しでもなければ、新しい指導的精神の思索でもなかった。『樵談治要』のなかに彼は「・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・……美しい手で確乎と椅子の腕を握り、じっとして思索に耽っている時のまじめな眠りを催すような静寂。体は横の方へ垂れ、頭は他方の手でささえて、眼は鈍い焔のように見える。「全身が考えている。」Whole Body thinks. そして思索のため・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫