・・・…… 古老の伝える所によると、前田家では斉広以後、斉泰も、慶寧も、煙管は皆真鍮のものを用いたそうである、事によると、これは、金無垢の煙管に懲りた斉広が、子孫に遺誡でも垂れた結果かも知れない。・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・実際その時の佐佐木君の勢は君と同姓の蒙古王の子孫かと思う位だったのです。小島君も江戸っ児ですから、啖呵を切ることはうまいようです。しかし小島君の喧嘩をする図などはどうも想像に浮びません。それから又どちらも勉強家です。佐佐木君は二三日前にこゝ・・・ 芥川竜之介 「剛才人と柔才人と」
・・・態に似合わず悠然と落着済まして、聊か権高に見える処は、土地の士族の子孫らしい。で、その尻上がりの「ですか」を饒舌って、時々じろじろと下目に見越すのが、田舎漢だと侮るなと言う態度の、それが明かに窓から見透く。郵便局員貴下、御心安かれ、受取人の・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・これは、昔、かごから逃げていなくなった鳥の子孫らであります。しかし、めくら星は、永久に森の中に近づくことができません。空しく、はるかにほととぎすや、ふくろうのなき声を聞きながら、高い山の頂を過ぎるのです。・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・元来子孫の維持と優生という男女協同の任務の遂行が、女子に特別な負荷を要求する以上、男子が女子を保護しなければならないのは当然のことである。しかるに今日においては国法は男子の利益においてきめられ社会は母性と、産児と、未亡人とを保護しない。妊娠・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・その計画し、もしくは着手した事業を完成せず、中道にして廃するのを遺憾とするのもある。子孫の計がいまだならず、美田をいまだ買いえないで、その行く末を憂慮する愛着に出るのもあろう。あるいは単に臨終の苦痛を想像して、戦慄するのもあるかも知れぬ。・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・の川を漂泊い行く心細さを恐るるのもある、現世の歓楽・功名・権勢、扨は財産を打棄てねばならぬ残り惜しさの妄執に由るのもある、其計画し若くば着手せし事業を完成せず、中道にして廃するのを遺憾とするのもある、子孫の計未だ成らず、美田未だ買い得ないで・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・その士族の子孫の中から北村君のような物を考える人が生れて来たということは私には偶然では無いように思われる。猶、新時代の先駆者たりし北村君に就いては、話したいと思うことは多くあるが、ここにはその短い生涯の一瞥にとどめておく。・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・だいいちには、圭吾自身のため、またお前のため、またばばちゃのため、それから、お前たちの祖先、子孫のため、何としても、こんどのおれの願い一つだけは、聞きいれてくれねばいけねえ。」「なんだべ、ねす。」嫁は針仕事を続けながら、小声で言いました・・・ 太宰治 「嘘」
・・・なにせ相手は槍の名人の子孫である。私は、めっきり口数を少くした。「さ、どうぞ。おいしいものは、何もございませんが、どうぞ、お箸をおつけになって下さい。」小坂氏は、しきりにすすめる。「それ、お酌をせんかい。しっかり、ひとつ召し上って下さい・・・ 太宰治 「佳日」
出典:青空文庫