・・・もちろん狐の洋服ですからずぼんには尻尾を入れる袋もついてあります。仕立賃も廉くはないと私は思いました。そして大きな近眼鏡をかけその向うの眼はまるで黄金いろでした。じっと私を見つめました。それから急いで云いました。「ようこそいらっしゃいま・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 風が一そうはげしくなってひのきもまるで青黒馬のしっぽのよう、ひなげしどもはみな熱病にかかったよう、てんでに何かうわごとを、南の風に云ったのですが風はてんから相手にせずどしどし向うへかけぬけます。 ひなげしどもはそこですこうししずま・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・「それじゃ早く俺のしっぽにつかまれ。しっかりとつかまるんだ。さ。いいか。」 二人は彗星のしっぽにしっかりつかまりました。彗星は青白い光を一つフウとはいて云いました。「さあ、発つぞ。ギイギイギイフウ。ギイギイフウ。」 実に彗星・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ ところが次の日のこと、畜産学の教師が又やって来て例の、水色の上着を着た、顔の赤い助手といつものするどい眼付して、じっと豚の頭から、耳から背中から尻尾まで、まるでまるで食い込むように眺めてから、尖った指を一本立てて、「毎日阿麻仁をや・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 狐は可笑しそうに口を曲げて、キックキックトントンキックキックトントンと足ぶみをはじめてしっぽと頭を振ってしばらく考えていましたがやっと思いついたらしく、両手を振って調子をとりながら歌いはじめました。「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・「馬の尻尾だよ」「ふーむ、本当? どこから持って来たの」「抜いて来たのさ」「――嘘いってら! 蹴るよ」「馬の脚は横へは曲りませんよ。擽ったがってフッフッフッって笑うよ」 ふき子が伸びをするように胸を反して椅子から立ち・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・まるでチョロリとしたしっぽを下げているきりで、いかに私が楽天的な妻でも、頭に毛が十本というのではお目にかかりにくいわ。 来年になって眼の方がちゃんとしたら、髪の毛もせめて普通までこぎ戻るように太陽燈でもかけます。これは眼に害がある光線だ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・全く私は変なウシミツ時にあなたに喋りかけては、計らずしっぽを出してしまいますものね。 私は年に一つは本の出来るだけに働くプランです。今年は或は暮れに近づいて二冊出るかもしれません。評伝と別に白揚社が感想集を出すと云っているから。――・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・爺さんの給仕が、白手袋をはめて、燕尾服のしっぽをふりまわしながら、その間を働いている。汗は爺さんの額に光っている。ピアノの音。三鞭酒のキルクのはぜる音。ピリニャークが自分たちに訊いた。「何をたべましょうか?」 はじめて自分は「作家の家」・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫