・・・もし、ピシアスがあなたを欺いて、御指定の日までにかえってまいりませんでしたら、すぐに私をお殺し下さい。」と言いました。 ディオニシアスは、デイモンのその申出を聞いて、むしろびっくりしてしまいました。そして、よし、それではピシアスの言うと・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・これを朋友子弟に頒つ。主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩艶絶。これを一読するに、温乎として春風のごとく、これを再読するに、凜乎として秋霜のごとし。ここにおいて、余初めて君また文壇の人たるを知・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・印刷所の手落ちでは無く、兄がちゃんと UMEKAWA と指定してやったものらしく、uという字を、英語読みにユウと読んでしまうことは、誰でも犯し易い間違いであります。家中、いよいよ大笑いになって、それからは私の家では、梅川先生だの、忠兵衛先生・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・私たち師弟十三人は丘の上の古い料理屋の、薄暗い二階座敷を借りてお祭りの宴会を開くことにいたしました。みんな食卓に着いて、いざお祭りの夕餐を始めようとしたとき、あの人は、つと立ち上り、黙って上衣を脱いだので、私たちは一体なにをお始めなさるのだ・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・ すこし調子が出て来たぞと思ったら、もう八枚である。指定の枚数である。ふたたび、現実の重苦しさが襲いかかる。読みかえしてみたら、甚だわけのわからぬことが書かれてある。しどろもどろの、朝令暮改。こんなものでいいのかしら。何か気のきいた・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
ほんとうのことは、あの世で言え、という言葉がある。まことの愛の実証は、この世の、人と人との仲に於いては、ついに、それと指定できないものなのかもしれない。人は、人を愛することなど、とても、できない相談ではないのか。神のみ、よ・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・集り願って、一夜ゆっくり東京のこと、郷里の津軽、南部のことなどお話ねがいたいと存じますので御多忙中ご迷惑でしょうが是非御出席、云々という優しい招待の言葉が、その往復葉書に印刷されて在り、日時と場所とが指定されていた。私は、出席、と返事を出し・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・夜悶悶、陽のめも見得ぬ自責の痩狗あす知れぬいのちを、太陽、さんと輝く野天劇場へわざわざ引っぱり出して神を恐れぬオオルマイティ、遅疑もなし、恥もなし、おのれひとりの趣味の杖にて、わかきものの生涯の行路を指定す。かつは罰し、かつは賞し、雲の無軌・・・ 太宰治 「創生記」
・・・人間については、私もいささか心得があり、たまには的確に、あやまたず指定できたことなどもあったのであるが、犬の心理は、なかなかむずかしい。人の言葉が、犬と人との感情交流にどれだけ役立つものか、それが第一の難問である。言葉が役に立たぬとすれば、・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」等である。幕あく。舞台しばらく空虚。突然、荒い足音がして、「叱るんじゃない。聞きたい事があるんだ。泣かなくてもいい。」などという声と共に、上手のドアをあけ、国民・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫