・・・ 王女の生活の公式の面と私的な面とは、右の手と左の手のようなもので、聖書の文句にあるとおり、右手のなすところを左手にしらしむるなかれという関係におかれているのだろうか。 こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ブランデスはあんなに鋭く背景となった十八世紀時代の動きを分析していながら『人間喜劇』の作者が、上品な詩的な情感をもっていたから、復古時代にテンメンとしたといっているのですもの。 又今これをかきつづけます。今はもう夜の十二時近く。前の行ま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・調の私的評論が流行したのも一九四九年の一現象であった。個人としてそれらの人々がどのように歴史の現実をうけとり、それを表現し、そのことによって、進んでゆく歴史と自分との関係を、おのずから客観の証明のもとに浮き上らせてゆくことは、もとより各人の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・フランスの敗れた本質的な理由としてあげている幾つかの事情も、つまりは結果として現れた現象を並べているにすぎず、何故それらのことは起ったのかという大切な点について彼の記述は全く史的な洞察を欠いている。一九三五年の早春のパリ事件の本質が、フラン・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・モーロアは、フランスの敗因をいくつかあげて、その一つの重要なものとして、ダラディエとレイノーの私的な憎悪や醜聞を面白可笑しく喋っている。空々しく、イギリスの政治家は潔白な生活をしているなどと云っているけれども、そして、フランスの防衛の準備が・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ しかし、短篇であるにしろ従来の私的身辺小説であるまいとする努力はすべての作家の念頭から離れず、一方で三田伸六、車膳六その他の主人公たちが生まれるとともに、他の一面では多くの作家の眼が、今日の生活の前方や右左へ強い観察を放つよりもむしろ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・散文精神という言葉はこれらの作家達によって言われているのであるが、ロマンティシズムに対する、又は常套的な詩的精神に対する現実の強調、勇気ある散文の精神を対置している意味は何人にも明かであるとして、現実と作家との関係を方向づけている上述のよう・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ム否定論者として浪曼主義に賛成し、新感覚派の時代から自然主義的、現実主義的文学方法に絶えざる反撥をつづけて来た横光利一、川端康成、佐藤春夫その他、市井談議一般に倦怠し、同時にリアリズムを更に高めゆく歴史的努力への根気をも失いつつ時世の荒さに・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
先ごろ、ある婦人雑誌で、婦人の公的生活、私的生活という話題で、座談会を催す計画があったようにきいた。何かの都合で、それは実現されなかった。しかし、その話をきいたとき、わたしは、それは面白い話題のつかみかただと思った。提案者・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 民主日本への歴史的な転換は、当然文学にも新しい窓をひらいた。民主的な文学という欲求がある。しかし、今日のごく若い文学の働き手、または今日読者であるが未来は作家と期待される人々にとって、民主の文学といっても、なんとなしいきなりつき出され・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫