・・・眼光はいまだそこに達しないのである、とかいうふうに。文学のそとの世界でも、東洋人は「眼」という字を意味ふかく扱ってきている。眼光紙背に徹すとか、心眼とか。あなたの眼力には恐れいったと叩頭するとき、人は、嘘もからくりも見とおしだ、という事実を・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・山の手の日曜日の寂しさが、二人の周囲を依然支配している。 森鴎外 「かのように」
・・・ このままでややしばらくの間忍藻は全く無言に支配されていたが、その内に破裂した、次の一声が。「武芸はそのため」 その途端に燈火はふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿がしばらくは一人で晃々。 下・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・それは夢のような幻影としても、負け苦しむ幻影より喜び勝ちたい幻影の方が強力に梶を支配していた。祖国ギリシャの敗戦のとき、シラクサの城壁に迫るローマの大艦隊を、錨で釣り上げ投げつける起重機や、敵船体を焼きつける鏡の発明に夢中になったアルキメデ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そうして大きい、よく組織された国家の、すみずみまで行き届いた秩序があり、権力の強い支配者があり、豊富な産業がある。骨までも文化が徹っている。東海岸の国土、たとえばモザンビクの海岸においても状態は同じであった。 十五世紀から十七世紀へかけ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫