・・・俺はおまえの行末の志望については少しも干渉せぬ。附け焼刃と云うものは何にもならぬものである。何でも自分の好いた方、気に向いた事をやるが得策だ。しかし絵はそればかりを職業として、それで生活しようと云うにはあまりに不利なものである。せっかく腕は・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・しかし『道徳教』でも『論語』でもコーランでも結局はわれわれの智恵を養う蛋白質や脂肪や澱粉である。たまたま腐った蛋白を喰って中毒した人があったからと云って蛋白質を厳禁すれば衰弱する。 電車で逢った背広服の老子のどの言葉を国定教科書の中に入・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 植物の果実のことだけを詳しく取り扱ったいわゆるカルポロジーの本を読んだときに、乾燥すると子房がはじけて種子をはじき飛ばすものの特例の一つとして Impatiens noli-tangere というものが引き合いに出ていた。インパチェン・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・三原山投身者が大都市の新聞で奨励されると諸国の投身志望者が三原山に雲集するようなものである。ゆっくりオリジナルな投身地を考えているような余裕はないのみならず、三原山時代に浅間へ行ったのでは「新聞に出ない」のである。 このように、新聞はそ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・折詰の飯に添えた副食物が、色々ごたごたと色取りを取り合せ、動物質植物質、脂肪蛋白澱粉、甘酸辛鹹、という風にプログラム的に編成されているが、どれもこれもちょっぴりで、しかもどれを食ってもまずくて、からだのたしになりそうなものは一つもない。・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ このような疑問を抱いて私は手近な書物から人間の各年齢における死亡率の曲線を捜し出してみた。すべての有限な統計的材料に免れ難い偶然的の偏倚のために曲線は例のように不規則な脈動的な波を描いている。しかし不幸にして特に四十二歳の前後に跨がっ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 片田舎の中学生で、さきざき高等学校から大学に進もうという志望をいだいているものにとっては、暑中休暇に帰省している先輩の言動はかなり影響のあるものである。そういうような影響もあるいはあったろうが、暑中休暇の間はほとんど毎日のように私のう・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・そこで愈英文科を志望学科と定めた。 然し其時分の志望は実に茫漠極まったもので、ただ英語英文に通達して、外国語でえらい文学上の述作をやって、西洋人を驚かせようという希望を抱いていた。所が愈大学へ這入って三年を過して居るうちに、段々其希望が・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・実は本年は不思議に実業志望が多ございまして、十三人の卒業生中、十二人まで郷里に帰って勤労に従事いたして居ります。ただ一人だけ大谷地大学校の入学試験を受けまして、それがいかにもうまく通りましたので、へい。」 全く私の予想通りでした。 ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・「そこで、澱粉と脂肪と蛋白質と、この成分の大事なことはよくおわかりになったでしょう。 こんどはどんなたべものに、この三つの成分がどんな工合に入っているか、それを云います。凡そ、食物の中で、滋養に富みそしておいしく、また見掛けも大へん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
出典:青空文庫