・・・チンダルは科学者の心持で終始一貫して、その科学精神の勁くリアリスティックであることから独特の美を読者に感じさせる。所謂文学的な辞句の努力や文学的感情と云われているものやへの人為的な屈折なしに、すっきりとした高い人間らしい美を示している。科学・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・私共は其の道程にのみ終始するべきではございません。使用すべき権能に使用されてはなりません。如何程鋭利に研かれた小刀も其を動かす者の心の力に依って鈍重な木片となる事を私共は知らなければならないのでございます。 斯様に考えて来ると、私共は、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・時間としては短い二ヵ月余のソヴェト初旅行は、それ故終始、敏感なジイドにとって或る悲痛な感情の緊張をともなった印象の裡にまとめられたものであると云えよう。彼らしく、「狭き門」の作者らしく、ジイドは、ゴーリキイやダビや、オストロフスキー、その他・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・この事情が、デレンコフの収支を次第に激しく喰いちがわせる。デレンコフは配慮ぶかく明るい色の髯をひねりながら云った。「何とか考えなけりゃならない」 そして、罪ありげに微笑し、重々しく溜息をついた。ゴーリキイは、デレンコフが負っている重・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・知性の喪失を、梶が謳歌していることに対して、もし、苦しんでいる知識人からの祝詞や花束がおくられると予想すれば、それは贈りての目当てにおいて大いにあやまったものと云わざるを得ない。従来馴致された作家横光の読者といえども、知性を抹殺する知性の遊・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・つづめていえばわたくしは終始ヂレッタンチスムをもって人に知られた。 歳計をなすものに中為切ということがある。わたくしはこの数行を書して一生の中為切とする。しかし中為切があるいはすなわち総勘定であるかも知れない。少くも官歴より観れば、総勘・・・ 森鴎外 「なかじきり」
終始末期を連続しつつ、愚な時計の振り子の如く反動するものは文化である。かの聖典黙示の頁に埋れたまま、なお黙々とせる四騎手はいずこにいるか。貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫