・・・その代り生徒に何かしら実用になる手工を必修させ、指物なり製本なり錠前なりとにかく物になるだけに仕込んでやりたいという考えである。これに対してモスコフスキーが、一体それは腕を仕込むのが主意か、それとも民衆一般との社会的連帯の感じを持たせるため・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 紙の色は鈍い鼠色で、ちょうど子供等の手工に使う粘土のような色をしている。片側は滑かであるが、裏側はずいぶんざらざらして荒筵のような縞目が目立って見える。しかし日光に透かして見るとこれとはまた独立な、もっと細かく規則正しい簾のような縞目・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ この絵には別にこれと云って手っ取り早く感心しなければならないような、一口ですぐ云ってしまわれるような趣向やタッチが、少なくも私には目に立たない。それだけ安易な心持で自然に額縁の中の世界へ這入って行けるように思う。じっと見ていると、何か・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ とにかく、これでもかこれでもかと眼新しい趣向を凝らして人性の自然を極度に歪曲したものばかり見せられている際に、たまたまこういう人間らしい平凡な情味をもった童話的なものに出会うと清々しい救われたような気持がするから妙である。 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・そうした趣向がうまいのではなくて、ただその編集の呼吸がうまいのである。同じことをやるのでもドイツ映画だとどうしても重くるしくなりがちのように思われる。同じようにこの呼吸のうまい他の一例は、停車場の駅長かなんかの顔の大写しがちょっと現われる場・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ここまではおそらく多くの読者も少なくも多少の条件付きでは首肯されるであろうと思われる。しかし、さらに一歩を進めて、科学上の傑出した著述はすべて芸術であると言おうとすれば、これにはおそらく容易に同感を表しかねる人が多いであろうと思われる。こう・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 現在のわれわれの分子物理学上の知識から考えて、こういう想像は必ずしもそう乱暴なものではないということは次のような考察をすれば、何人にも一応は首肯されるであろうと思う。 金属と油脂類との間の吸着力の著しいことは日常の経験からもよく知・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・があると言えば、それはおそらく多くの人が首肯するであろう。ある一部の人々が宣伝というものに対していだいている漠然とした反感のようなものも、一つはここに帰因するのであろう。 店の飾りや、広告の楽隊や、旗印を押し立てた自動車やは、あれは最も・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ とにかくこういうふうに考えれば、完全週期的な縞と不規則な縞とをひとまとめに論ずる事がそれほど乱暴でないということだけは首肯されるであろう。 以上のほかにも天然の縞模様の例はたくさんあるであろう。放電についても放電管内の陽極の縞や、・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これはおそらく大多数の科学者の首肯する所なるべし。しかし実際にはこれらのすべての条件が知り難き故に結果の単義性は問題となる。 抽象的、数学的に考うれば複義性なる函数は無数に存在す。例えばファン・デル・ワール等の理論に従えば、ガス体の圧を・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
出典:青空文庫