・・・機械的訓練を貴んだり、動物的勇気を重んじたりするのも小学校にのみ見得る現象である。殺戮を何とも思わぬなどは一層小児と選ぶところはない。殊に小児と似ているのは喇叭や軍歌に皷舞されれば、何の為に戦うかも問わず、欣然と敵に当ることである。 こ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 又 悉達多は六年の苦行の後、菩提樹下に正覚に達した。彼の成道の伝説は如何に物質の精神を支配するかを語るものである。彼はまず水浴している。それから乳糜を食している。最後に難陀婆羅と伝えられる牧牛の少女と話している。・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・あれは全く尋常小学を出てから、浪花節を聴いたり、蜜豆を食べたり、男を追っかけたりばかりしていた、そのせいに違いない。こうお君さんは確信している。ではそのお君さんの趣味というのが、どんな種類のものかと思ったら、しばらくこの賑かなカッフェを去っ・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・ おねえさんは 小学一年生です。「ぼっちゃん、お口を ふさいで。」と、しゃしんやさんが いいますと、正ちゃんは、ああんと 口を あけました。「ぼっちゃん、いい 子ですから、わらって くださいね。」と、しゃしんやさんが い・・・ 小川未明 「しゃしんやさん」
・・・その島の小学児童は毎朝勢揃いして一艘の船を仕立てて港の小学校へやって来る。帰りにも待ち合わせてその船に乗って帰る。彼らは雨にも風にもめげずにやって来る。一番近い島でも十八町ある。いったいそんな島で育ったらどんなだろう。島の人というとどこか風・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・ 白堊の小学校。土蔵作りの銀行。寺の屋根。そしてそこここ、西洋菓子の間に詰めてあるカンナ屑めいて、緑色の植物が家々の間から萌え出ている。ある家の裏には芭蕉の葉が垂れている。糸杉の巻きあがった葉も見える。重ね綿のような恰好に刈られた松も見・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・公立八雲小学校の事は大河でなければ竹箒一本買うことも決定るわけにゆかぬ次第。校長になってから二年目に升屋の老人、遂に女房の世話まで焼いて、お政を自分の妻にした。子が出来た。お政も子供も病身、健康なは自分ばかり。それでも一家無事に平和に、これ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・幼時は小学校に於て大津も高山も長谷川も凌いでいた、富岡の塾でも一番出来が可かった、先生は常に自分を最も愛して御坐った、然るに自分は家計の都合で中学校にも入る事が出来ず、遂に官費で事が足りる師範学校に入って卒業して小学教員となった。天分に於て・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 兄は高等小学を出たゞけで、それ以外、何の勉強もしていなかった。それでも、彼と同じ年恰好の者のうちでは、誰れにも負けず、物事をよく知っていた。農林学校を出た者よりも。それが、僕をして、兄を尊敬さすのに十分だった。虹吉は、健康に、団栗林の・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・清三が小学を卒業した時、身体が第一だから中学へなどやらずに、百姓をさして一家を立てさせようと主張した。しかし為吉は、これからさき、五六反の田畑を持った百姓では到底食って行けないのを見てとっていた。二十年ばかり前にはそうでもなかったが、近年に・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
出典:青空文庫