・・・ 去る十二月二十日に行われた東京ユネスコ協力会発起人会で招請状を出した新居格氏は、ユネスコの本質上この会は会員の純潔な良心に期待しなければならないと力説されました。発言した方々のすべてのことばはここに一致していました。その会の委員として・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・床の間に並べ有之候御位牌三基は、某が奉公仕りし細川越中守忠興入道宗立三斎殿御事松向寺殿を始とし、同越中守忠利殿御事妙解院殿、同肥後守光尚殿御三方に候えば、御手数ながら粗略に不相成様、清浄なる火にて御焼滅下されたく、これまた頼入り候。某が相果・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・ただ清浄な水がこの受糧器に一ぱいあればよろしい。咒で直して進ぜます」「はあ咒をなさるのか」こう言って少し考えたが「仔細あるまい、一つまじなって下さい」と言った。これは医道のことなどは平生深く考えてもおらぬので、どういう治療ならさせる、ど・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・ 愛は都会の優れた医院から抜擢された看護婦たちの清浄な白衣の中に、五月の徴風のように流れていた。 しかし、愛はいつのときでも曲者である。この花園の中でただ無為に空と海と花とを眺めながら、傍近く寄るものが、もしも五月の微風のように爽かであ・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・私はどうしても心を清浄にしたい。たとえそのために人間性質のある点に関する興味が涸渇しようとも。私が他人を罵るのは畢竟自分を罵ることでした。他人の内に穢ないもののある事を見いだすのは、要するに自分の内にも同じもののある証拠に過ぎませんでした。・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・まことに静寂な清浄な、月の光のような芸である。 偉大なるエレオノラ・デュウゼ。 かの皮肉なバアナアド・ショオをして心からの讃美と狂喜とをなさしめたエレオノラ・デュウゼ。 僕はシモンズ氏によって今少しくこの慕わしい女優の芸術を・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫