・・・「焼跡で花を売る少女」などという、いわゆる美談佳話製造家の流儀に似てはいないだろうか。 蛍の風流もいい。しかし、風流などというものはあわてて雑文の材料にすべきものではない。大の男が書くのである。いっそ蛍を飛ばすなら、祇園、先斗町の帰り、・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・ 五年前、つまり私が二十三歳の時、私はかなり肩入れをしていたKという少女と二人でいそいそと「月ヶ瀬」へ行った。はいるなりKという少女はあん蜜を注文したが、私はおもむろに献立表を観察して、ぶぶ漬という字が眼にはいると、いきなり空腹を感じて・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 少年が少女を橇に誘う。二人は汗を出して長い傾斜を牽いてあがった。そこから滑り降りるのだ。――橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風がビュビュと耳を過ぎる。「ぼくはおまえを愛している」 ふと少女はそんな囁きを・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・堯はそんなときいつか電車のなかで見たある少女の顔を思い浮かべた。 その少女はつつましい微笑を泛べて彼の座席の前で釣革に下がっていた。どてらのように身体に添っていない着物から「お姉さん」のような首が生えていた。その美しい顔は一と眼で彼女が・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・毛は肩にたれて、まっ白な花をさした少女やそのほか、なんとなく気恥ずかしくってよくは見えませんでした、ただ一様に清らかで美しいと感じました。高い天井、白い壁、その上ならず壇の上には時ならぬ草花、薔薇などがきれいな花瓶にさしてありまして、そのせ・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・げにこの天をまなざしうとく望みて永久の希望語らいし少女と若者とは幸いなりき。 池のかなたより二人の小娘、十四と九つばかりなるが手を組みて唄いつつ来たるにあいぬ。一目にて貧しき家の児なるを知りたり。唄うはこのごろ流行る歌と覚しく歌の意はわ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・「島の小女は心ありてかく晩くも源が舟頼みしか、そは高きより見下ろしたまいし妙見様ならでは知る者なき秘密なるべし。舟とどめて互いに何をか語りしと問えど、酔うても言葉すくなき彼はただ額に深き二条の皺寄せて笑うのみ、その笑いはどことなく悲しげ・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・といって、十四、五の少女では相手になれまい。 八 最後の立場――運命的恋愛 しかしこうした希望はすべて運命という不可知な、厳かなものを抜きにして、人間的規準をもって、きわめて一般的な常識的な、立言をしているにすぎない・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 吉永は、少女にこちらへ来るように手まねきをした。 丘の上では、彼等が、きゃあきゃあ笑ったり叫んだりした。 そして、少し行くと、それから自分の家へ分れ分れに散らばってしまった。 二 山が、低くなだらかに傾斜し・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・このあたりあさのとりいれにて、いそがしぶる乙女のなまじいに紅染のゆもじしたるもおかしきに、いとかわゆき小女のかね黒々と染ぬるものおおきも、むかしかたぎの残れるなるべしとおぼしくて奇なり。見るものきくもの味う者ふるるもの、みないぶせし。笥にも・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
出典:青空文庫