・・・そのくせに坐り丈はなかなかあッて、そして(少女の手弱腕首が大層太く、その上に人を見る眼光が……眼は脹目縁を持ッていながら……、難を言えば、凄い……でもない……やさしくない。ただ肉が肥えて腮にやわらかい段を立たせ、眉が美事で自然に顔を引き立た・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ この古今未曾有の荘厳な大歓迎は、それは丁度、コルシカの平民ナポレオン・ボナパルトの腹の田虫を見た一少女、ハプスブルグの娘、ルイザのその両眼を眩惑せしめんとしている必死の戯れのようであった。 こうして、ナポレオンは彼の大軍を、いよい・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・バアルは美しい快活な少女を捕えてむだ話をしていたが、その娘は何の気なしにこういう話をした。「昨晩私のそばにいた貴婦人がひとり急に痙攣ちゃって、大騒ぎでしたの。そのかたも喜劇を演りにペテルスブルグへいらっしゃるんですって。デュウゼとかって名前・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫