・・・それだけ、この『現代文学論』一冊は、評論としての正統な理論的追究と同時に、文学の芸術的因子にこまかくふれた論考であるということが云えるのだと思う。 この十年の間に、日本の文学は実に激しい風浪にさらされた。社会の屋台骨ごと揉まれている。著・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・如何程鋭利に研かれた小刀も其を動かす者の心の力に依って鈍重な木片となる事を私共は知らなければならないのでございます。 斯様に考えて来ると、私共は、米国女性一般が果して、彼女等の権能を如何程までの反省を以て把持して居るだろうかと思わずには・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・夥しい良書悪書の氾濫にもかかわらず、女性の著作のしめている場所は、狭く小さく消極的で、波間にやっと頭を出している地味の貧しい小島を思わせる。やっと、やっと、絶え絶えの声を保って来ているのである。 そして、なお興味のあることは、おや、すこ・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・そして、かつて動揺していた時代のアンドレ・ジイドの低迷的な作品や正統なロシア文学史には名の出ていないようなロシア生れの批評家シェストフの虚無的著作を、非常なとりまきでかつぎあげながら持ちこんできた。落付いて観察すると、これはまことに奇妙なや・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 両日の間に叔母上の死体を、小島さんのところに来た水兵の手で埋り出し、川島、棺作りを手伝って、やっと棺におさめ、寺に仮埋葬す。その頃、東京から小南着。 五日頃から、倒れなかった田舎の百姓家に避難し、親切にされる。幸、熱も始め一二日で・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・p.276◎無信仰の十字架に釘づけになった彼は民衆の前に正統派の教えを説き、智識は分裂し燃焼するということを知っていたので これを抑圧し、そして聖書に即した厳格な農民の信仰に、幸福を与えるような虚言を説教したのである。p.277◎彼・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・や「小島の春」のような素人の文学「女子供の文章」の真実性が云われた。しかしやがて、文学の最後の小石のような真実も戦争強行の波におされて婦人作家も南や北へ侵略の波とともに動くようになった。 執筆三月。その年。九月。杉垣。この・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・母と一番多く衝突をした娘である私、生活の上で一つ一つと心にのこるような大きい事柄では頑固な程母の期待とは違うように動かなければならなかった娘である私が、長い歴史の目で見れば、女性としての母の生涯の一番正統な根気づよい発展者であろうと希ってい・・・ 宮本百合子 「母」
・・・をつけて呼んだバルザックが政治的に正統王朝派であったことは、同じバルザックが「牧師」の中でマルクスの心を打ったほど鋭く現実の資本主義商業の成り立ちを喝破していることと撞着するものでないというのが、バルザックの花車を押し出した一部のプロレタリ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ こんな場合につかわれた便乗は、そのころはやり出した便乗ということばの、最も正統な、また最も素朴な使いかたであった。便乗という言葉は、バスにのりおくれまい、という表現と前後した。翼賛議員になる時勢のバスにのりおくれまいとあわてる人々の姿・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫