・・・ 大砲をうつとき、片脚をぷんとうしろへ挙げる艦は、この前のニダナトラの戦役での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。 さて、空を大きく四へん廻ったとき、大監督が、「分れっ、解散」と云いながら、列をはなれて杉の木の大監督官舎に・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・第一(の精霊は飛び上って精女の目を見つめ神経的に高笑をする。二人の精霊もその声にこっちを向いて二人の廻りをとり巻く。第一の精霊 シリンクスお主はこの若人に何をお云いなされた? あの笑い声は――あんまりとりとめもない声だったが・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・も少しで神経衰弱になると云うところで、ならずに済んでいるのです。卒業さえしてしまえば直ります。」 奥さんもなる程そうかと思って、強いて心配を押さえ附けて、今に直るだろう、今に直るだろうと、自分で自分に暗示を与えるように努めていた。秀麿が・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ず一切の形式破壊に心象の交互作用を端的に投擲することに於て、また如実派の或る一部、例えば犬養健氏の諸作に於けるがごとく、官能の快朗な音楽的トーンに現れた立体性に、中河与一氏の諸作に於けるが如く、繊細な神経作用の戦慄情緒の醗酵にわれわれは屡々・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・その一年あまりの間、都会育ちの先生が、立ち居も不自由なほどの神経痛になやみながら、生まれて初めての山村の生活の日々を、「ちょうど目がさめると起きるような気持ちで」送られた。その記録がここにある。それはいわば最近二十年の間の日本の動乱期がその・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫