・・・白梅や墨芳ばしき鴻臚館宗鑑に葛水たまふ大臣かな実方の長櫃通る夏野かな朝比奈が曽我を訪ふ日や初鰹雪信が蝿打ち払ふ硯かな孑孑の水や長沙の裏長屋追剥を弟子に剃りけり秋の旅鬼貫や新酒の中の貧に処す鳥羽殿へ五六騎いそ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ そこから、ゴーゴリの諷刺と本質的にちがいつつ、アメリカのナンセンスとも異る新種の快活、辛辣が生じている。 そんなにゴーゴリの泣き笑いとはちがう若く確信に満ちた哄笑が響いていながら、なお、この「黄金の仔牛」の読者が、しばしば、ああイ・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・けれども、経済の土台がそういう不安定であることと、女は稼業の中心に入らないというしきたりとのため、特にあとの条件のため、どことなし女として社会的な進取の態度が失われて今日まで来ていると思う。「隣組」の実際的なねうちは、漁家のそれら様々の・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ また、先頃フィリッピンのバシラン島附近で高麗鶯の新種を発見して博物学界に貢献した、博物採集を仕事としている山村八重子さんの自分の仕事に対する愛情は、すべての事情からいわゆる商売気は離れています。彼女には商売気を必要としない生活の好条件・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・その時分出現した新感覚派と称する流派と並んでブルジョア文学の伝統とその流転のはてに咲きいでた新種のはやりではなかった。文学のうまれる母胎としての社会の階層・階級を、勤労するより多数の人々の群のうちに見いだし、社会の発展の現実の推進力をそれら・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ そうすると、 第一は、思い切り保守的な、宗教的な婦人と、 進取的な、努力的な、従って標準より、より知的であると倶に芸術的である婦人。 第三は、良人から与えられる金を当然の権利として、彼女の意のままに消費する群、つまり流行の・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ しかしまあ自分の主義によってこうして居るんですが―― 神主じゃあんまり下さいませんな。」 斯う云って居る目には生活難を感じながら平身低頭して朝夕神に仕えて居なければならない貧しい神官のあわれさが、しみじみと浮び見えて居た。・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・持ち前の進取の気風で、君主がローマ綴で日記をつけ、ギヤマン細工を造り、和蘭式大熔鉱炉を築き、日本最初のメリヤス工場を試設したが、その動機には、外国の開化を輸入して我日本を啓蒙しようとする、明かな受用の意志が在る。長崎の人々が南蛮、明の文化に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 家柄は禰宜様――神主――でも彼はもうからきし埒がないという意味で、禰宜様宮田という綽名がついているのである。 人中にいると、禰宜様宮田の「俺」はいつもいつも心の奥の方に逃げ込んでしまって、何を考えても云おうとしても決して「俺の考」・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・祖父は進取の方の気質で、丁髷も藩士のうちでは早く剪った方らしく、或る日外出して帰った頭を見ればザンギリなのに気丈の曾祖父が激憤して、武士の面汚しは生かして置かぬと刀を振って向ったという有様を、祖母は晩年までよく苦笑して話した。開発のことが終・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫