・・・ 私は、過去に多くの人々が真愛に達し、輝きの自体と成ったのを知っています。 それ等の人が経て来た道程も明かにされています。 けれども、窮極に於て、自分は自分の道を踏まなければなりません。 宇宙のあらゆる善美、人類のあらゆる高・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 抗争摩擦の面をさけてなるべく平和にと心がけられた結果、その努力は一面の成功と同時に、あんまり歴史がすべすべで民族自体の気力を感じさせる溌剌さを欠いている。それは、これまでの調子から離れようとしているときのさけがたいあらわれかもしれない・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・に参加して、戦時国債や貯金の誘説のほかに働き、その名声は、戦争の進行につれて益々被いがたくなって来た国内の生活崩壊の事態を、あれやこれやと彌縫するためにだけ利用されるという惨めな状態に陥ったのであった。 今日、人民全体が既成の「政治」に・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・白手袋をはめたエリザベスの両手は、ショックにたえている表情でかたく握りあわされ、おのずと倒れている同性に視線の注がれている彼女の顔じゅうには、そのような事態を遺憾とするまじめさがたたえられている。しかし、閲兵する王女としての足どりは乱れず、・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 仮りに、今日の事態が、世界平和と社会主義防衛のためにソヴェトの赤色陸海軍が動員されなければならないことになったとする。プロレタリア作家は彼の武器と、鉛筆と手帳とをもって、防衛に立つであろう。 彼等は勇敢に行動するだろう。彼等は勇敢・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・の偉大さを、社会主義社会建設のために、階級的方向にどう利用して行くべきかを作品の中で指示せず、逆に或る者は「ロシアの土の力」自体が、自然発生的に社会主義を決定するかのように考えた。 このことは、農業機械に対する農民の感情の解剖などにもよ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・どこでいつ行われようと無慙、野蛮でしかありようない現代のおそろしい兵器による戦争そのものがとりのぞかれようとしないならば、それにつづく事態ばかりをせめることは、歴史の発展のない、民族的自虐でさえある。歴史の現実にたいしてはっきりと目を開いて・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・明日の事がよく見とおせるだけ、事態は明瞭だとは云い難い。 しかし、健全な文化、明るく朗らかな生活ということは到るところに云われていて、私たちは心からそのような文化の誕生を期待し、歓迎し、その誕生のために努力を惜まない気持でいるのだと思う・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 文学作品の本質は、この文化勲章の場合のように文学と当代の文化政策との関係の中に反映されるばかりでなく、小説が現実を反映し自然また現実へも照り返してゆく本質を持っているということは、文学自体の発展の問題の中にも、歴史の一定の時期には微妙・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 日本女は辞退した。婦人党員はわきにしゃがんで日本女の膝の上へ持ってたハギトリ帖と鉛筆をのせた。 ――では、どうぞ名と職業を書いて下さい。 彼女は、日本女が耳で演説をききながら下手な字で「日本。作家、ユリ・チュウジォ」と書くのを・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫