・・・この時エマソンはホイットマンに向かって恩恵の主たることを自負しうるものだろうか。ホイットマンに詩人がいなかったならば、百のエマソンがあったとしても、一人のホイットマンを創り上げることはできなかったのだ。ホイットマンは単に自分の内部にある詩人・・・ 有島武郎 「想片」
・・・緑雨が世間からも重く見られず、自らも世間の毀誉褒貶に頓着しなかった頃は宜かったが、段々重く見られて自分でも高く買うようになると自負と評判とに相応する創作なり批評なりを書かねばならなくなるから、苦しくもなり固くもなった。同時に自分を案外安く扱・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・恨平らぎ難きを 業風過ぐる処花空しく落ち 迷霧開く時銃忽ち鳴る 狗子何ぞ曾て仏性無からん 看経声裡三生を証す 犬塚信乃芳流傑閣勢ひ天に連なる 奇禍危きに臨んで淵を測らず きほ敢て忘れん慈父の訓 飄零枉げて受く美人の憐み 宝刀・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 少し作家的反省と自負とがあるならば、これは、単に、資本家の意図にしかすぎないことを知るのである。真の大衆は、最も彼等の生活に親しみのある。いろ/\な真実の言葉を聞こうと欲するにちがいない。常識にまで低下して、何等の詩なく、感激なき作品・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ 日蓮のかような自負は、普遍妥当の科学的真理と、普通のモラルとしての謙遜というような視角からのみみれば、独断であり、傲慢であることをまぬがれない。しかし一度視角を転じて、ニイチェ的な暗示と、力調とのある直観的把握と高貴の徳との支配する世・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・波木井殿に対面ありしかば大に悦び、今生は実長が身に及ばん程は見つぎ奉るべし、後生をば聖人助け給へと契りし事は、ただ事とも覚えず、偏に慈父悲母波木井殿の身に入りかはり、日蓮をば哀れみ給ふか。」 かくて六月十七日にいよいよ身延山に入った。彼・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・けれども、決して、これまでの日本の農民生活を、十分にその特殊性において、さま/″\な姿で描き得ていると自負することは出来ない。凡、事実は反対に近い。むしろ、払われた努力があまりにすくなかった。農民の生活は従来、文学に取りあげられた以上にもっ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ ここまでの文章には私はゆるがぬ自負を持つ。困ったのは、ここからの私の姿勢である。 私はこの玩具という題目の小説に於いて、姿勢の完璧を示そうか、情念の模範を示そうか。けれども私は抽象的なものの言いかたを能う限り、ぎりぎりにつつしまな・・・ 太宰治 「玩具」
・・・私は、友人たちの仲では、日本の古典を読んでいるほうだとひそかに自負しているのであるが、いまだいちども、その古典の文章を拝借したことがない。西洋の古典からは、大いに盗んだものであるが、日本の古典は、その点ちっとも用に立たぬ。まさしく、死都であ・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・おのれの愛情の深さのほどに、多少、自負もっていたのが、破滅のもと、腕環投げ、頸飾り投げ、五個の指環の散弾、みんなあげます、私は、どうなってもいいのだ、と流石に涙あふれて、私をだますなら、きっと巧みにだまして下さい、完璧にだまして下さい、私は・・・ 太宰治 「創生記」
出典:青空文庫