・・・ 上等の奴やなかったら効かへんと二十円も貰った御寮人さんは、くすぐったいというより阿呆らしく、その金を瞬く間に使ってしまった。けれども、さすがに嫂の手前気がとがめたのか、それとも、やはり一ぺん位夫婦仲の良い気持を味いたかったのか、高津の・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・最下等の芸者だが、最上等の芸者よりも清いのである。もっとも情夫は何人もいる。…… 語っているマダムの顔は白粉がとけて、鼻の横にいやらしくあぶらが浮き、息は酒くさかった。ふっと顔をそむけた拍子に、蛇の目傘をさした十銭芸者のうらぶれた裾さば・・・ 織田作之助 「世相」
・・・この日も鷹見は、帰路にぜひ寄れと勧めますから、上田とともに三人連れ立って行って、夫人のお手料理としては少し上等すぎる馳走になって、酒も飲んで「あの時分」が始まりましたが、鷹見はもとの快活な調子で、「時に樋口という男はどうしたろう」と話が・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・、叔母は大きな声で『大丈夫、それにあの人は大酒を飲むの何のと乱暴はしないし』と受け合い、鬢の乱を、うるさそうにかきあげしその櫛は吉次の置土産、あの朝お絹お常の手に入りたるを、お常は神のお授けと喜び上等ゆえ外出行きにすると用箪笥の奥にしま・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・すべての男性が家庭的で、妻子のことのみかかわって、日曜には家族的のトリップでもするということで満足していたら、人生は何たる平凡、常套であろう。男性は獅子であり、鷹であることを本色とするものだ。たまに飛び出して巣にかえらぬときもあろう。あまり・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・古き型の常套的レディは次第に取り残され、新しき機能的なレディの型が見出されつつある。青年学生の青春のパートナーとして、私が避けたいのは媚を売る女性のみである。 私の経験から生じる一般的助言としては、「恋愛に焦るな」「結婚を急ぐな」と私は・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 栗島は、憲兵上等兵の監視つきで、事務室へ閉めこまれ、二時間ほど、ボンヤリ椅子に腰かけていた。机の上には、街の女の写真が大きな眼を開けて笑っていた。上等兵は、その写真を手に取って、彼の顔を見ながら、にや/\笑った。女郎の写真を彼が大事が・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・大西という上等兵が云った。「やっぱし、あれは本当だろうかしら?」「本当だよ。×××××××××××××××××××。」 やがて、彼等は、まだぬくもりが残っている豚を、丸太棒の真中に、あと脚を揃えて、くゝりつけ、それをかついで炊事場へ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それからまたボラ釣なんぞというものは、ボラという魚が余り上等の魚でない、群れ魚ですから獲れる時は重たくて仕方がない、担わなくては持てないほど獲れたりなんぞする上に、これを釣る時には舟の艫の方へ出まして、そうして大きな長い板子や楫なんぞを舟の・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・すると、アンティフォンは、「それはハーモディヤスとアリストゲイトンの鋳像のが一ばん上等です。」と答えました。ディオニシアスは愕いて、忽ちその男を殺させてしまいました。ハーモディヤスとアリストゲイトンの二人は、希臘のアゼンの町の勇士で、そ・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
出典:青空文庫