・・・る君のさきはひ我もよろこぶ天使のはろばろ下りたまへりける、あやしきしはぶるひ人どもあつまりゐる中にうちまじりつつ御けしきをがみ見まつる隠士も市の大路に匍匐ならびをろがみ奉る雲の上人天皇の大御使と聞くからにはるかに・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・とは言い得ざりしなり。常人をして言わしめば鮎くれしを主にして言うべし。そは平凡なり。よらで過ぎ行くところ、景を写し情を写し時を写し多少の雅趣を添う。 顔しかめたりとも額に皺よせたりともかく印象を明瞭ならしめじ、ことは同じけれど「眉あつめ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・大概覚悟はして居るけれど、それでも平和な時間が少し余計つづいた時に、ふと死ということを思い出すと、常人と同じように厭な心持になる。人間は実に現金なものであるということを今更に知ることが出来る。○去年の春であったか、非無という年の若い真宗・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・則ち説いて曰くと、これは疾翔大力さまが、爾迦夷上人のご懇請によって、直ちに説法をなされたと斯うじゃ。汝等審に諸の悪業を作ると。汝等というは、元来はわれわれ梟や鵄などに対して申さるるのじゃが、ご本意は梟にあるのじゃ、あとのご文の罪相を拝するに・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・「ナップ」常任中央委員会から左翼的逸脱の危険を、警告されたのであった。このときは、山田清三郎が、右翼的日和見主義の自己批判を発表した。当時「ナップ」の書記長は山田清三郎であった。「前進のために」をよむと、誤りをみとめつつ、なお林房雄などの卑・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、たとえ情人があってもなくても、いつかはああなって行くのが、あの方の運命だったのでしょう。あんなに歌の上では、自分の生活を呪ったり悲しんだり・・・ 宮本百合子 「行く可き処に行き着いたのです」
・・・――御参考までに○ 婦人民主クラブ役員改選のこと 来る六月十三日の会合で、多分役員改選が議題にのぼるでしょう 今まで発企人のいすわり常任幹事でしたが幹事全体と地区の代表のような人でセンコウ委員を選んで そこからのスイセンコー・・・ 宮本百合子 「往復帖」
去年の秋、日本プロレタリア作家同盟はその中央常任委員会に属する一つの文学的活動機能として婦人委員会を設けた。 元来プロレタリア文学の中に特別な婦人のプロレタリア文学などというものはない。それは明かなことだ。搾取に対して・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・木食上人、ブレーク、アルトの歌手。それとこの家! 実にびっくりして凄いような気がしました。Yの父は三井の大したところの由。私はブリティシュ・ミューゼアムで、ブレークの絵を見たときの印象を思い出し、ああいう特殊な世界にあってもとにかく清澄きわ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・が、妻の方は、只自分が一生一つ顔ばかり見て居なければならないと云う厭怠から、他に情人を作ります。もう彼女にとって、忠実なる働き手の良人は何の魅力も持って居りません。重荷でございます。早く振りはなしてしまいたい、けれども、若し自分がこのまま単・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫