・・・卑屈、結構。女性的、そうか。復讐心、よし。お調子もの、またよし。怠惰、よし。変人、よし。化物、よし。古典的秩序へのあこがれやら、訣別やら、何もかも、みんなもらって、ひっくるめて、そのまま歩く。ここに生長がある。ここに発展の路がある。称して浪・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・いや美しくはないけれど、でも、ひとりで生き抜こうとしている若い女性は、あんな下らない芸術家に恋々とぶら下り、私に半狂乱の決闘状など突きつける女よりは、きっと美しいに相違ない。そうだ、それは瞳の問題だ。いやもう、これはなかなか大変な奢りの気持・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・さいわい、山崎氏には、浅見、尾崎両氏の真の良友あり、両氏共に高潔俊爽の得難き大人物にして帷幕の陰より機に臨み変に応じて順義妥当の優策を授け、また傍に、宮内、佐伯両氏の新英惇徳の二人物あり、やさしく彼に助勢してくれている様でありますから、まず・・・ 太宰治 「砂子屋」
・・・ 私の調べてみたのは主として人物、特に女性を描いたものである。しかし以下にいうところの命題の大部分は、適当に翻訳する事によって風景画にも応用されるだろうと思っている。 浮世絵の画面における黒色の斑点として最も重要なものは人物の・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・の意味からいうと、本筋のストーリーよりもあのおおぜいの女学生の集団の中に現われる若いドイツ女性のケックハイト、デルブハイトといったようなものの描写の中に若干の真実の表現があるようで、見方によってはむしろそのほうに興味を引かれ同時にいろいろの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・そもそも日本の女の女らしい美点――歩行に不便なる長い絹の衣服と、薄暗い紙張りの家屋と、母音の多い緩慢な言語と、それら凡てに調和して動かすことの出来ない日本的女性の美は、動的ならずして静止的でなければならぬ。争ったり主張したりするのではなくて・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・鷺娘がむやみに踊ったり、それから吉原仲の町へ男性、中性、女性の三性が出て来て各々特色を発揮する運動をやったりするのはいいですね。運動術としては男性が一番旨いんだそうですが、私はあの女性が好きだ、好い恰好をしているじゃありませんか。それに色彩・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・メリメのカルメンはカルメンと云う女性を描いて躍然たらしめている。あれを読んで人生問題の根元に触れていないから駄作だと云うのは数学の先生が英語の答案を見て方程式にあてはまらないから落第だと云うようなものである。デフォーは一種の写実家である。ロ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・、と心細いこと限りなし、ああ吾事休矣いくらしがみついても車は半輪転もしないああ吾事休矣としきりに感投詞を繰り返して暗に助勢を嘆願する、かくあらんとは兼て期したる監督官なれば、近く進んでさあ、僕がしっかり抑えているから乗りたまえ、おっとそう真・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
私はこの地方にいるものではありません、東京の方に平生住っております。今度大阪の社の方で講演会を諸所で開きますについて、助勢をしろという命令――だか通知だか依頼だかとにかく催しに参加しなければならないような相談を受けました。それでわざわ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫