・・・何となく人工的な感じのする点がこの池を有名にしているかと思われた。しかし、紅葉の季節に見直すといいかもしれない。同じ道を引返して帝国ホテルで昼飯を食ってから、今度は田代池というのを見に行った。赤あかさびの浮いた水には妙に無気味な感覚があって・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ 人工映画 実在の人間や動物や家屋や景色や、あるいは実在なものの代用をするセットの類をショットの標的とする普通の映画のほかに、全くこれら実在のものを使わずそのかわりに黒い紙を切り抜いたシルエットの人形と背景を使った「・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうして、過去にあったあらゆる具体的の場合を験査し、またいろいろな場合を人工的に作るために「実験」を行なった。それらの経験と実験の、すべての結果を整理し排列して最後にそれらから帰納して方則の入り口に達した。 文学は、そういう意味での「実・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 火事は人工的災害であって地震や雷のような天然現象ではないという簡単明瞭な事実すら、はっきり認識されていない。火事の災害の起こる確率は、失火の確率と、それが一定時間内に発見され通報される確率によって決定されるということも明白に認められて・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・世界の人口の三分の一か五分の一かがことごとくこの鳥人になってしまったとしたら、この世界はいったいどうなるであろうか。 昔の日本人は前後左右に気を配る以外にはわずかにとんびに油揚をさらわれない用心だけしていればよかったが、昭和七年の東京市・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・世界の人口の三分の一か五分の一かがことごとくこの鳥人になってしまったとしたら、この世界は一体どうなるであろうか。 昔の日本人は前後左右に気を配る以外にはわずかに鳶に油揚を攫われない用心だけしていればよかったが、昭和七年の東京市民は米露の・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・つまり定住した人口が希薄なせいかもしれない。冬になればこのへんはほとんど無人境になるそうであるから。 そう言えば、すずめもいっこうに見かけない。御代田へんまで行くとたくさんいるそうである。このすずめの分布は五穀の分布でだいたいは説明がで・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・そういう人工的な音を響かせてそうしてそれを聞いてみて、それがもし本来の言葉とほぼ同じように「聞こえ」たとしたなら、その時にはじめて上記の考えがだいたいに正しいということになるであろう。 これはあまりにも勝手な空想であるが、こうした実験も・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・それで医術がもっともっと進歩すると、精神のけがでもこれら天然の妙機を人工的に幇助することによって楽に治療できるようになるかもしれない。 自分が今ここでこんな空想を起こしているのも、事によると子供のけがでびっくりして少し頭が変になったせい・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・鎌倉やまたこの平泉などのこうした地形を見ると、昔の日本の人口の少なかった程度が推測されるような気がするのである。昔のこれらの都市の面積と今の東京の面積との比が昔の日本の人口と今の人口との比に近いものを与えはしないかという想像が起る。 雨・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
出典:青空文庫