・・・あの特異な自然を活かして働かすような詩人的な徹視力を持つ政治家は遂にあの土地には来てくれないのだろうか。 最初の北海道の長官の黒田という人は、そこに行くと何といっても面白いものを持っていたようだ。あの必要以上に大規模と見える市街市街の設・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・自由に対する慾望とは、啻に政治上または経済上の束縛から個人の意志を解放せむとするばかりでなく、自己みずからの世界を自己みずからの力によって創造し、開拓し、司配せんとする慾望である。我みずから我が王たらんとし、我がいっさいの能力を我みずから使・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・といって、私を釧路の新聞に伴れていった温厚な老政治家が、ある人に私を紹介した。私はその時ほど烈しく、人の好意から侮蔑を感じたことはなかった。 思想と文学との両分野に跨って起った著明な新らしい運動の声は、食を求めて北へ北へと走っていく私の・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個を、紳士、旦那、博士に仕立てて、さくら、というものに使って、鴨を剥いで、骨までたたこうという企謀です。 前々から、ちゃら金が、ちょいちょい来ては、昼間の廻燈籠のように、二階だ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 間の宿で、世事の用はいささかもなかったのでありますが、可懐の余り、途中で武生へ立寄りました。 内証で……何となく顔を見られますようで、ですから内証で、その蔦屋へ参りました。 皐月上旬でありました。 三・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・―― で、華奢造りの黄金煙管で、余り馴れない、ちと覚束ない手つきして、青磁色の手つきの瀬戸火鉢を探りながら、「……帽子を……被っていたとすれば、男の児だろうが、青い鉢巻だっけ。……麦藁に巻いた切だったろうか、それともリボンかしら。色・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・縞がらは分らないが、くすんだ装で、青磁色の中折帽を前のめりにした小造な、痩せた、形の粘々とした男であった。これが、その晴やかな大笑の笑声に驚いたように立留って、廂睨みに、女を見ている。 何を笑う、教授はまた……これはこの陽気に外套を着た・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・政治家や実業家には得てこういう人を外らさない共通の如才なさがあるものだが、世事に馴れない青年や先輩の恩顧に渇する不遇者は感激して忽ち腹心の門下や昵近の知友となったツモリに独りで定めてしまって同情や好意や推輓や斡旋を求めに行くと案外素気なく待・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
一 島田沼南は大政治家として葬られた。清廉潔白百年稀に見る君子人として世を挙げて哀悼された。棺を蓋うて定まる批評は燦爛たる勲章よりもヨリ以上に沼南の一生の政治的功績を顕揚するに足るものがあった。 沼南には最近十四、五年間会っ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・それゆえに多くの独立を望む人が政治界を去って宗教界に入り、宗教界を去って教育界に入り、また教育界を去ってついに文学界に入ったことは明かな事実であります。多くのエライ人は文学に逃げ込みました。文学は独立の思想を維持する人のために、もっとも便益・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
出典:青空文庫