・・・ ルシアン・ルーヴェンのブルジョア性として正統派 エゴイスト 礼式ずくめ、過去への執着と、猛烈な共和派を見ている。スタンダールの内面は、いろんな万華鏡で何人かのルシアンにあらわされている。〔欄外に〕 ルシアン・ソレルがは・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・あの時代の現実は、青鞜社の時代で新しい歴史の頁をひらこうとした勇敢な若い婦人たちは、衒気を自覚しないで行動した頃であった。それにしろ、何か当時の漱石の文体が語っているようなある趣味で藤尾その他は描かれている部分が少くないように思える。最も面・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・客間の壁には、マルクスと並んでおびただしい正統学派、心理学派経済学者の写真がかけ連ねられている。日曜日の午後は半ズボンで過す英国人らしく哄笑しつつM氏は説明するだろう。 ――今更そんなものいくら見たってしょうがありゃしませんよ。今日では・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 平塚らいてう氏たちによってされた青鞜社の運動は、沢山の幼稚さやディレッタンティズムをもっていたにしろ、この社会へ女というものの存在を主張しようとする欲望の爆発として、歴史的なものであった。原始の女性は太陽であった。婦人の自由は社会生活・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ 平塚雷鳥を主唱者とした「青鞜社」の運動は、日本にイブセンとかエレン・ケイとか、婦人の解放を観念の面から取扱った思想が文芸運動として輸入された一九〇八年頃結成された。『青鞜』は文化運動としての女性の天才の発揮、限りない知的能力の発露とい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・「何か娑婆で忘れて来た事があるなら、一日だけ暇を貰って帰って来る権利があるのだ。正当に死ねるはずの時が来て死んだものには、そんな権利は無い、もう用事が無いはずだからな。自殺したものとなるととかく何かしら忘れて来るものだ。そのために娑婆の・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ それで果して文学的活動は正当さを主張し得るのであろうか。もしそれで正当となすものがあるならば、コンミニズム文学は、文学の圏内に於ては、最早やいかなる発展能力をも持ち得ないと云わなければならぬ。 われわれの文学は、文学形式と・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・かかる社会主義的な文学は、当然、正統な弁証法的発展段階のもとに成長して来た、新感覚派文学の中から起るべき運命を持っている。 しかしながら、次に起るべき新しき文学は、新感覚派の中から発生した社会主義文学のみではない。何故なら、われわれ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・二 その日のナポレオンの奇怪な哄笑に驚いたネー将軍の感覚は正当であった。ナポレオンの腹の上では、径五寸の田虫が地図のように猖獗を極めていた。この事実を知っていたものは貞淑無二な彼の前皇后ジョセフィヌただ一人であった。 彼・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・法螺ふきをそしるとか、自慢話を言いけすとかというのは、正当な批判であって、そねみや卑しめではない。そねむのは優れた価値を引きおろすことであり、卑しめるのは人格に侮蔑を加えることであって、いずれも道義的には最も排斥さるべきことである。 第・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫