・・・たが、それは人間の成熟のために計劃され、整理されたものではなくて自然に、云って見れば父や母の年齢、気質、時代の雰囲気との関係でかもし出されていたものだったから、両親が年をとるにつれて、若々しく克己的で精励だった気分は変化した。そして、大きく・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・自身の仕事については、力量に自信をもって精励であり、研究生のように勉強家です。今日と、明日の社会は、若い時代への健康な同情、人間より意志を理解しようとする良心の極少量さえも熱烈に要求しているのですから、私たちは野上さんが、若い時代の近側にあ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・その親がどのように自分たちの世代を熱心に善意をもって生きて、その子らのためにどんなより美しい、よりすこやかな社会の可能をひらいてやろうとして精励したか、我が家一つの狭い利己的な封鎖的な安泰の希願からどんなに広い、社会や、世界の生活への理解と・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・このでんで、『主婦之友』は戦争中は半分ほのめかされたことさえまるままの一つとしてのみこんで婦人を戦争にかりたて、軍部御用に精励した、あのころのことも思い出された。 アメリカに、いくつかの世論調査機関がある。なかでも、ギャラップ博士の米国・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・終極における愛とは、妻の愛にしろ、母の愛にしろ、波瀾にめげず、社会と自分との裡にあるより人間的な可能性を見きわめ、その実現のためにこの世を凌いでゆける沈着、快活な勇気と精励とを愛する者の心に湧き起す泉の様なものでなければならないのではあるま・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ 彼女は、優しい涙にぬれた感動をもって、醒めた、居睡った無数の生霊の上に、頭を垂れたのである。 けれども、此の稍々せんちめんたるな人が深夜、人気ない部屋に在って思う、こんな感動は、暫くすると、その感動を静かに見守る何物かによって、次・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・この時代の特色ある文学として現れた謡曲の中に婦人は描かれるが、それは例えていえば物狂い――気狂いとか、愛情の絆によって、生きながら生霊となり、また死んでも霊となって現れるような、切ない女の心に表現されている。当時の婦人はどんなに自分達の希望・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 生の喜悦は、現代ではますます精励な人間の精神と肉体とにしか感じられないものとなりつつあるのである。私たちはただ一度しかない自分たちの生をどんなにいとおしんでいるだろう。どんなにいい価値でそれを発揮させたいと切望しているだろう。今日と明・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・希望の精霊は、大気とともに顫う真珠の角笛を吹く……」 けれども、そう書き終るか終らないうちに、苦痛の第一がやって来た。彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々しい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかった・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・日本のように、明治以来、よろめきつつ漸々前進しつつある近代の精神を、精神の自立的成長よりテムポ迅い営利的企業がひきさらって、文学的精励、文壇、出版、たつき、と一直線に、文学商売へ引きずりおとしてしまう現象は、中国文学にまだ現れていないのでは・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫