・・・ 日露戦争に参加して、斥候に出て捕虜になった在郷軍人は、東京の家の書生の兄弟で、いい機嫌で、その時勇戦奮闘した様子を手まねまでして話した。 沙河附近の戦の時だったそうで、「そりゃあ、貴方様、見事に働きましたぞえ、そんじゃから・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・実際的には石や石膏をいじるより、例えば「文化と休みの公園」の広場に飾られてるような大骨板張の大労働者像、一九三〇年のメーデーに赤い広場に飾られた大群像、または示威運動の張りものみたいな非写実的な、応用美術の方が手に入ってる。日本で労働運動は・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・画学生マリアの服装は質素になった。石膏模型、骨の見本、マリアは僅かの間にジュリアンのアトリエで一番技術をもったブレスロオという娘を唯一の競争相手とするところまで突進した。マリアの異常な才能は輝き出した。それにしても、マリアのいそぎよう! 彼・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・翌朝景一は森を斥候の中に交ぜて陣所を出だし遣り候。森は首尾よく城内に入り、幽斎公の御親書を得て、翌晩関東へ出立いたし候。この歳赤松家滅亡せられ候により、景一は森の案内にて豊前国へ参り、慶長六年御当家に召抱えられ候。元和五年御当代光尚公御誕生・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 秀麿と父との対話が、ヨオロッパから帰って、もう一年にもなるのに、とかく対陣している両軍が、双方から斥候を出して、その斥候が敵の影を認める度に、遠方から射撃して還るように、はかばかしい衝突もせぬ代りに、平和に打ち明けることもなくているの・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫