・・・ だんだん目が馴れて来ると弾が上がって行く途中の経路を明瞭に認める事が出来る、そして破裂する時に、先ず一方へ閃光のように迸り出る火焔も見え、外被が両分して飛び分れるところも明らかに見る事が出来る。風の影響もあるだろうが、それよりもむしろ・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・何とか云う名の洋紅色大輪のカンナも美しいが、しかし札幌円山公園の奥の草花園で見た鎗鶏頭の鮮紅色には及ばない。彼地の花の色は降霜に近づくほど次第に冴えて美しくなるそうである。そうして美しさの頂点に達したときに一度に霜に殺されるそうである。血の・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・左舷に五秒ごとに閃光を発する平舘燈台を見る。その前方遥かに七秒、十三秒くらいの間隔で光るのは竜飛岬の燈台に相違ない。強い光束が低い雲の底面を撫でてぐるりと廻るのが見える。青森湾口に近づくともう前面に函館の灯が雲に映っているのが見られる。マス・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・この方面の専攻者にとっては、地震というものはただ地盤の複雑な運動である。これをなるべく忠実に正確に記録すべき器械の考案や、また器械が理想的でない場合の記録の判断や、そういう事が主要な問題である。それから一歩を進むれば、震源地の判定というよう・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火の一角を当てるときにできる黒色の環状紋である。これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・たその晩に私の宅へ遊びに来てトリオの合奏をやっていたら、突然某新聞記者が写真班を引率して拙宅へ来訪しそうして玄関へその若い学者T君を呼び出し、その日発表した研究の要旨を聞き取り、そうしてマグネシウムの閃光をひらめかし酸化マグネシウムを含んだ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・たとえばまた自分の専攻のテーマに関する瑣末な発見が学界を震駭させる大業績に思われたりする。しかし、人が見ればこれらの「須弥山」は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それで、負惜しみのようではあるが、物理学を専攻する人間でも、座談や随筆の中ではいくらか自由な用語の選択を寛容してもらいたいと思うのである。 この抗議のはがきの差出人は某病院外科医員花輪盛としてあった。この姓名は臨時にこしらえたものらしい・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・大学にはいって物理学を専攻する人はさらに深き第三段第四段の「理解」に進むべき手はずになっている。マッハの「力学」一巻でも読破して多少自分の批評的な目を働かせてみて始めていくらか「理解」らしい理解が芽を吹いて来る。しかしよくよく考えてみるとそ・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ただかえってこんな思わぬ不用意の瞬間に閃光のごとくそれを感じるだけであろうかと思われる。 この雪夜の橇の幻の追憶はまた妙な聯想を呼出す。父が日清戦争に予備役で召集されて名古屋にいたのを、冬の休みに尋ねて行ってしばらく同じ宿屋に泊っていた・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
出典:青空文庫