・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・複雑なそれらの要素は夜も昼も停止することのない生活の波の上に動いているわけで、私たちはその動きやまない生活の閃光のようにおりおりの幸福感を心の底深くに感じる。だけれども、その感じは大体感覚の本性にしたがって、ある時が経てば消える。 この・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 犬養暗殺のニュースは、私に重く、暗く、鋭い情勢を感じさせた。閃光のように、刑務所や警察の留置場で闘っている同志たちのこと、更に知られざる無数の革命的労働者・農民のことが思われた。 十六日留置場の看守は交代せず、話しかけられるのを防・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・数日後には専攻しているフランス文学研究のために渡仏しようとしている或る若い女のひとにあったら、その友達に大変私の書くものを好いて皆よんでいるというひとがあるという話になった。そう云われて嬉しくないものはないと思う。すると、それにつづけて「そ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
わたしたちの時代には、学校がそこにあった関係から、お茶の水と呼んでいた附属高女の専攻科の方が見えて、雑誌に何かかくようにと云われた。いまその原稿をかきはじめている、わたしの心持には複雑ないろいろの思いがある。そして、そうい・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・人間社会では、自覚されるされないにかかわらず、客観の事実として、そういうふうに生産と政治が、文学に先行した。そして現在そうであるし、これからもその関係は変らない。 過去のプロレタリア文学の理論は、そこまで社会の客観的現実を見る眼を開いた・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 科学と探偵小説 木々高太郎氏は、執筆する探偵小説によって賞をも得たことは周知であり、パヴロフの条件反射を専攻されている医博であることを知らぬものはない。同氏の『夜の翼』という探偵小説集が出ていて、それを読み、・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 二十一歳の私がアメリカあたりで噂によれば洗濯屋だったとか皿洗いだったとか云われている東洋学専攻の男と結婚したり、その生活に苦しんで何年間も作品らしいものも書けずにいたようなことも、先生の目には又もや女がそこで足をとられた姿として、いく・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・と結び、それによって逆効果をひき起し、ある機智的な鋭さで、閃光のように作家としての良心の敏さ、芸術境の独自性を全篇の内部に照りかえそうと試みられそうであったかもしれない。ところが、「父母」全篇を通じての一番普通の人間はわかりよいこの文句には・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・内容としての世界観、形式としての芸術性という風な、過去の二元論に足を取られていて、芸術性というものの本来の在りようは、作品に於ける内容と形式との特殊な統一の仕方から生じるもの、芸術作品にとって芸術性は先行的にあり得るものではなくて、芸術作品・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫