・・・と作者が自分の父母の生涯を描いた二冊の作品とを代表選集として売り出している。 既刊の五冊を読んだ感想として、パール・バックが中国の生活を描いたこれらの作品は、とくに今日の日本の読者にはぜひ熟読されるべき性質のものであるという感が深い。パ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・おいらあ泉州産で、虎蔵と云うものだ。そんな事をした覚はねえ」 文吉が顔を覗き込んだ。「おい。亀。目の下の黒痣まで知っている己がいる。そんなしらを切るな」 男は文吉の顔を見て、草葉が霜に萎れるように、がくりと首を低れた。「ああ。文公か・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・早くからドイツ語を専修しようと思い立って、東京へ出た。所々の学校に籍を置き、種々の教師に贄を執って見たが、今の立場から言えば、どの学校も、どの教師も、自分に満足を与えることが出来ない。ドイツ人にも汎く交際を求めて見たが、丁度日本人に日本の国・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫