・・・ 民主戦線の結成ということは、政治めいた言葉と響いているが、私たちは、自分たちの一生が又とくり返しようもない、いとおしいものであることを犇々と感じている。それがどんなに傷つき不具となっていようとも其故にこそ、ひとしお懐しい生れ故郷である・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・上海その他へ出かけて、目下戦線ルポルタージュ専門の如き観を呈している林房雄氏が上述の提唱の首脳であったことは説明を要しない。文芸懇話会賞というものをその作「兄いもうと」に対しておくられた室生犀星氏は、自身の如く文学の砦にこもることを得たもの・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・そのために、スペインの民主戦線に有名なパッショナリーアと呼ばれた婦人がいたことも知らなければ、大戦中フランスの大学を卒業した知識階級の婦人たちの団体が、どんなにフランスの自由と解放のためにナチス政権の下で勇敢な地下運動を国際的に展開したかと・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・耐えがたい隷属の生活であればこそ、世界平和と民族の自立の要求は、アジア各民族の婦人たちの精神にはげしくもえたって、マライには七千人の婦人たちによる統一戦線がつくられました。ビルマでは一九四六年に全ビルマ婦人会議が組織されました。ここには四万・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・人民の統一戦線は、うちのなかまで入って来ています。だから若い進歩的な人々は、ただ親を――古い時代を論破するという段階からはずっと進みでているわけで、休暇中に国へ帰っている学生たちの仕事は、その土地での生活擁護のいろいろな活動に入っていって、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ あの評論にふくまれている誤謬は、プロレタリア文学の戦線拡大に対する政治的態度の未熟さと、そこからひきおこされた文学に対するピューリタニックな熱情の噴出にあったのだった。それは、作品を批評された作家たちにやけどさせたばかりでなく、筆者自・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 世界の階級闘争がひろい文化戦線にわたって激化されるようになってから、敵の陣営=ブルジョアを攻撃し、笑殺する武器としてのプロレタリア諷刺は、弁証法的な形で扱われるようになって来た。 対手の悪と醜とを暴露し、やっつけるぎりの消極的諷刺・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・それは「偽装の魅力『国民戦線』」という見出しの記事であった。「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだりがあった。これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 今から十四年前、ソヴェト同盟が新しい社会を建てた時、つまり革命をやった時、沢山の労働者・農民の闘士が赤色戦線でたおれた。間もなく、ひどいチブスが流行して、それでも大勢のものが死んだ。子供も死んだが大人も死んで、孤児がウンとできました。・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 或る日例の口調でメーラが、「ね、家庭戦線はどうなの? 曇りなき天国?」ときいた。インガは答えた。「私は幸福よ。望んでいたものをみんな持っているらしい。」 メーラは機敏な黒い目で、インガが何だか口ごもったのを見のがさなか・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
出典:青空文庫