・・・ 其れ故若し彼が真個の全快を希望したなら恐らく彼はだれでもと同様に子供の様になりながらじいっと一枚一枚繃帯の薄れて行くのを楽しみにして居た事であろう。 子供らしいと云われる事かも知れないが必ず左様あるべきなのである。 其れを苦し・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ この次の機会にこそ、日本は漁夫の利をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前にありついて、前回でものにしそこねた北や南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。あれこれと形をかえて、民間にはいりこんでいるもとの・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・はそのようないきさつでの立場が、自然にその人の人生にくみとられて語られている。前回の分とあわせて三十篇近い記録のなかで、戦争に対する抗議が社会の問題としてのひろがりをもって表現されているのは、「愛と戦いと」の結末であった。「茨の道を踏み切っ・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・ちまち選挙違反で検挙されるような代議士の頭数ばかりあつめて、大臣病にきゅうきゅうとしているとき、もし私たち婦人が、心から自分の運命を守ってたち上らないならば、だれが明日の生命を保障してくれるでしょう。前回の総選挙で百万票を得た日本共産党が、・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
・・・関係の人的損耗、四九万六千人海軍関係人的損耗、六六万二〇七九人太平洋戦争開始以来一般空襲被害概況死者 二四一、三〇九名負傷者 三一四、〇四一名家屋全焼全壊 二、三三三、三八八戸家屋半焼半・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけら・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の庭に、木葉が掃いても掃いても溜まる頃であった。丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・実に忍藻はこの老女の実子で、父親は秩父民部とて前回武蔵野を旅行していた旅人の中の年を取った方だ。そして旅人の若い方はすなわち世良田三郎で、母親の話でも大抵わかるが、忍藻にはすなわち夫だ。 この三郎の父親は新田義貞の馬の口取りで藤島の合戦・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫