・・・漱石全集を読み直していた時だったので、明治時代のインテリゲンツィアが持っていた錯雑性という点からもいろいろ考えられた。 小堀杏奴さんの「晩年の父」は、「安井夫人」から受けた鴎外についての私の印象の裏づけをして、いろいろさまざまの興味を与・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 本年のはじめ、私が特別な非人間的生活を強いられていた間に、漱石全集をよみました。寒い寒い板のような空気の中で、手は懐手が出来るが耳は懐へしまえないから霜やけをかゆがりながら、その日記の部分をみていたら、私にとってまことに興味ある一文に・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・そういう芸術探求の道で芭蕉でもやっぱり一度は禅宗などに踏み入っているのは面白い。渾沌翠に乗て気に遊ぶ人死を待て生たはいなし こんな禅臭の句も作った。しかし、芸術家としての彼が遂に一大勇猛心をふるいおこして、小さい・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ 今日は、前週出した、インドにおける綿花生産の消長と英国資本主義との関係に関する学生の研究報告の批評があった。この仕事を学生たちは、三組に分れ、集団的にやったのだ。 ワーニカはターニャとは別の組に入った。ターニャはちぢれっ毛のイリー・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
・・・手前の方に斜に置いてある本を取って見ると、Beaudelaire が全集のうちの一巻であった。 別に読もうという気もなしに、最初のペエジを開けて見ると、おもちゃの形而上学という論文がある。何を書いているかと思って、ふいと読み出した。・・・ 森鴎外 「花子」
・・・当時の宗教としては、禅宗や浄土真宗や日蓮宗などが最も有力であった。しかし日本の民衆のなかに、苦しむ神、死んで蘇る神というごとき観念を理解し得る能力のあったことは、疑うべくもない。そういう民衆にとっては、キリストの十字架の物語は、決して理解し・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
今度岡倉一雄氏の編輯で『岡倉天心全集』が出始めた。第一巻は英文で発表せられた『東洋の理想』及び『日本の覚醒』の訳文を載せている。第二巻は『東洋に対する鑑識の性質と価値』その他の諸篇、第三巻は『茶の書』を含むはずであるという。岡倉先生の・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
キェルケゴオルのドイツ訳全集は一九〇九年から一九一四年へかけて出版せられた。その以前にも前世紀の末八〇年代から九〇年代へかけて彼の著書はかなり翻訳せられたが、宗教的著作のほかは、かなり厳密を欠いたものであった。 彼に関する研究は、・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・と言いながら樗牛全集五巻を世人に遺したのはこれがためである。たとえ有能なる影響を吾人の心霊に与えずとも少なくとも彼の霊的努力は彼がばかにしていた「小児輩」にかなりの勢力がある。この霊的執着の半面には物質を超越せんがために強烈なる煩悶があった・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫