・・・「泥烏須は全能の御主だから、泥烏須に、――」 オルガンティノはこう云いかけてから、ふと思いついたように、いつもこの国の信徒に対する、叮嚀な口調を使い出した。「泥烏須に勝つものはない筈です。」「ところが実際はあるのです。まあ、・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・が、不幸にも日本人は罵殺するのに価いするほど、全能の神を信じていない。 民衆 民衆は穏健なる保守主義者である。制度、思想、芸術、宗教、――何ものも民衆に愛される為には、前時代の古色を帯びなければならぬ。所謂民衆芸術家の民・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・姑にいびられた嫁が後日自分で姑の地位に立った場合には綺麗に昔の行届かなかった自分を忘れてしまうように、自分が審査員になる頃にはたちまち全能の神のような心持になる、ということも全然この世にないとは限らない。これは各自の反省すべき点であろう。可・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・もしこの人と同じように考えるならば、ただ一人の全能の神が宇宙を支配しているという考えもいかにさびしく荒涼なものであろう。 今のところ私は、すべての世人が科学系統の真美を理解して、そこに人生究極の帰趣を認めなければならないのだと信ずるほど・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・前者は集積し凝縮し電子となりプロトーンとなり、後者は一つにかたまり合って全能の神様になり天地の大道となった。そうして両者ともに人間の創作であり芸術である。流派がちがうだけである。 それゆえに化け物の歴史は人間文化の一面の・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・星明かなる夜最後の一ぷくをのみ終りたる後、彼が空を仰いで「嗚呼余が最後に汝を見るの時は瞬刻の後ならん。全能の神が造れる無辺大の劇場、眼に入る無限、手に触るる無限、これもまた我が眉目を掠めて去らん。しかして余はついにそを見るを得ざらん。わが力・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・ 第一次五ヵ年計画のすんだ今では全農戸の七割が集団農場化し、耕作機械、刈入機械の配給所は三千百ヵ所にまで殖えた。耕地面積は五年前を一〇〇とすると一四五で、世界のよその国ではアメリカでも農業恐慌で耕作面がどんどん縮少しているのに比べて実に・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・ 一九二九年には、ソヴェト全農戸の五〇パーセントが集団農場化し、農民の心理は急速に変化しはじめた。生産手段の工業化とともに視野はひろがった。馬鋤を押して行きつ戻りつする個人耕作の畦が消えたといっしょに、社会主義的な方法で農業生産に従事す・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ ソヴェト同盟の全農戸の半分が集団農場に組織された。 集団農場で働く農民の収入は、個人耕作をやる農民の年収の倍、或は三倍だ。それはそうだろう。第一税がひどくやすい。集団農場を組織して三年間は無税だ。種代、農具代は、政府の補助がある。・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・そして、この七月の統計によるとソヴェト同盟全農戸の六〇パーセントが集団農場に組織された。 森君は、マルクシズムとか、階級闘争とかいろいろの言葉を文中につかっているが、実際はそのABCさえも理解していない。「仮にこの武器によって次第に階級・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
出典:青空文庫