・・・そうして見れば飾磨屋は、どうかした場合に、どうかした無形の創痍を受けてそれが癒えずにいる為めに、傍観者になったのではあるまいか。 若しそうだとすると、その飾磨屋がどうして今宵のような催しをするのだろう。世間にはもう飾磨屋の破産を云々する・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・宅の主人に相違ございません。 男。まあ、それはそれでよろしゅうございます。そこでなんだってあんな狂言をなすったのです。あのお見せになった写真の好男子は誰ですか。 女。あの写真はロンドンで二シルリングかそこらで買ったのでございます。わ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・屋根の虫は丁度その濡れた旅人の蓑のような形をしているに相違ないと灸は考えた。 雨垂れの音が早くなった。池の鯉はどうしているか、それがまた灸には心配なことであった。「雨こんこん降るなよ。 屋根の虫が鳴くぞよ。」 暗い外・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・この様式もいつの時かに始まり、そうして後に固定したものに相違ない。が、その謎めいて古い起源が我々には魔力的に感ぜられるのである。 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫