・・・そしておひめ様をさらっていったばけものを退治するんだ。そんなばけものがきっとどこかにあるね。」「うん。あるだろう。けれどもあぶないじゃないか。ばけものは大きいんだよ。ぼくたちなんか、鼻でふきとばされちまうよ。」「ぼくね、いいもの持っ・・・ 宮沢賢治 「いちょうの実」
・・・山猫はとうとうつかまって退治された。耳の中にこう云う玉入っていた。」なんてやっていました。そのうちキッコは算術も作文もいちばん図画もうまいので先生は何べんもキッコさんはほんとうにこのごろ勉強のために出来るようになったと云ったのでした。二・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・ちょうど人間が胎児であったとき、その成長の過程で、ごく初期の胎生細胞はだんだん消滅して、すべて新しい細胞となって健康な赤ん坊として生れてくる。けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこっ・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・子供の遊ぶ部屋の前には大きい半分埋まった石、その石をかくすように穂を出した薄、よく鉄砲虫退治に泥をこねたような薬をつけられていた沢山の楓、幾本もの椿、また山桜、青桐が王のように聳えている。畑にだって台所の傍にだって木のないところなど一つもな・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・ じゃ清正が退治したってのは本当は豚かい?」「これ! 何です、豚かいなんて」「ハハハハ。構わん構わん……清正が退治したのは本物の虎さ。だが虎は朝鮮でもずっと北へ行かないじゃいまいよ」「ふーん」 暫くまた二人の話をきいていたが・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・財閥は決して退治されていない。生計の担当者である彼女たちの一票は少くともそれに反対する人民の意思表示となるべきであると思う。 安達ヶ原 群馬の或るところに恐ろしい人肉事件が起った。また再び詳しく話し返すに堪えな・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・すなわち、結核に対する人間の新しい態度――より科学的により社会的に、人間を不幸にするこの細菌は退治られなければならないという態度をめやすとしていいと思う。気分や、雰囲気から描かれているばかりでなく。―― 「白い激流」 伊東千代子・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ 純文学はこの時代、はっきりとした対立をもって、プロレタリア文学の運動が当時の発展の段階で努力の目標としている大衆化の観念と対峙していた。通俗文学の作者も自信をもって、通俗小説の彼らの所謂大衆的本質を固持していたのであった。 今日、・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ところがもう六度の手術で子宮の組織がすっかり破壊されてしまって居たので、胎児の発育を持ちこたえられず子宮破裂で その女は死んでしまった。 人工流産を小さい番号札と最大限二十五―三十留までの金と三日の臥床とにだけ圧搾して考えるСССР的無・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・兎に角この一山を退治ることは当分御免を蒙りたいと思って、用箪笥の上へ移したのである。 書いたら長くなったが、これは一秒時間の事である。 隣の間では、本能的掃除の音が歇んで、唐紙が開いた。膳が出た。 木村は根芋の這入っている味噌汁・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫