・・・が『文芸戦線』の文学的傾向とは全く対蹠的なキュービズムやダダイズム、構成派の影響を強く受けて、それを独自なよりどころとしようとしたことも充分うなずける。 当時「新感覚派」はプロレタリア文学に不満を持つ広い範囲の知識人、文学愛好者の支持を・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そこにやはり記録されざる個々の行跡の偉大な堆積がある。 学者の家 その部屋へ入ったとき日本女は軽くめまいがした。 旧ウラジーミル大公の家の大きい二つの窓の下をネ河が流れている。はやく流れている。どこを見わた・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・雁金八郎という、小学校をでたばかりであるが発明についての才能をもった男が、久内と対蹠的人物として「紋章」にでてくる。その雁金の存在と醤油製造、乾物製造についての発明の過程や、久内の父である山下博士の雁金に対する学閥を利用しての資本主義的悪策・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・自己完成ということは、日本ブルジョア・デモクラシーの完成という点とかかわりあった課題であると理解し「科学的な操作による自己完成の追及の堆積」を決心している青年が描かれているのです。 ここでこの作品が注目する価値をもっている点がはっきりし・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・同志神近は「同盟が過去一年間に堆積して来た指導理論の一部の偏向を極端な形で現している」と認め、同志藤森は、「僕自身いわゆる指導部の一員として」「中條的批難は別として」「僕の知る限り同盟の誰も」「作品を非難しても君の階級的意志を否定する者はな・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・財界の特需景気と警察予備隊景気、戦争気分をそそるレッド・パージとそれに対蹠する戦犯一万九百人の解放。われわれ日本の人民は、事実をどう語っていいのか、不安におかれはじめた。 平和の問題こそ、いまの日本の運命にとって、中心課題である。みんな・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である。「チボー家の人々」を・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・ばかりのロシアの富裕な貴公子で、天性優美と不決断とを持った西欧主義者として当時ペテルブルグの華やかな社交界に余暇の多い日々を送っていたればこそ、舞台以外のヴィアルドオ夫人と親しくする機会をもち、彼とは対蹠的であったらしい夫人の溌剌とした性格・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 大きい方の弟が、牧場の土のところどころにある黒い堆積をさして、「ねえ、あれ、牛のべたくそ?」と大きな声できいた。「そうですよ」 一緒に牛をみている女中が、のんびりした調子で答えた。 すると、下の弟が、「べたくそ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ 四 全然対蹠的な主題を扱った小説として同じ『中央公論』に同志細田民樹の「裏切者」がある。今日「プロヴォカートル」という言葉は逆宣伝的な意味にでも通俗化され、新語辞典に出て来る文字となった。プロレタリア作家・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
出典:青空文庫