・・・二三年前プロレタリア文学運動に蹉跌を生じ急速に退潮するとともに、文芸復興の声が高くあがった。それには、当時として必然なさまざまの理由があったのではあるが、それ以来多くの作家の「芸の虫」めいた技法追究は激しく推移する日本の現実の情勢から、作品・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静に、確乎性をもって歴史的な眼から行われ難い。船が難破しかかったとき、最後にその船を転覆させて自分たちの命もすてさせてしまうのは、舷の傾・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・吉村隊長でさえ、検事局はあれだけ全国的に事実をかためてから逮捕した。飯田、山本両氏について、検事局は「往来危険罪で処断」と最悪の場合は死刑までふくむ法文を引用して見解を示している。 ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・一九三二年以来日本の社会的事情は急激に変化して、プロレタリア文学は退潮を余儀なくされ、その背後の社会的な力は同時にブルジョア文学をも著しく萎靡させた。それに反撥する要求として、一部の作家から文学に於ける能動的精神ということが言われ初めた。・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・ プロレタリア文学運動が、運動として退潮して後、民衆の生活を直接取り上げてゆく作家として加賀氏はプロレタリア文学の正当な要素の受け継ぎ手の一人であるかのように一部の読者に思われている。しかし、一人の作者がその題材でだけ刻下の現実の一面に・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・それと同時に、左翼運動全般が退潮していて、間接な意味ででも一定の方向とか規準とかいうものが明瞭にあらわれていない。しかも、文化面だけでも社会の対立を意識する心にはそれが鋭く感じられる時期であるから、この三つの事情は相互に絡み合いその上外部と・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ 二三年前、文学における古典の摂取が云われはじめた時分は、プロレタリア文学運動の退潮を余儀なくさせた社会事情が他面対立的な文学にも貧困の自覚を与えており、それに対して文芸復興が唱えられ、古典の摂取は、当時にあっては、現代の文学的発展のた・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ プロレタリア文学の擡頭は、日本の文学に新しい局面を開き、新たな芸術の価値と質的展開の可能を示したのであったが、一九三二年以後の日本の社会事情は、最も瞠目的な方法と過程で、その退潮を余儀なくさせた。作家として、自己の帰趨に迷ったブル・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・板垣退助を隊長とする官軍に属する医者の息子である一人の青年に「維新の業は我ら草莽の臣の力によってなさるべきだ」といわせたり「暗厄利亜国に、把爾列孟多というものがあるのを御存知ですか。この戦争後に、それができるのでなければ、ちょっと死ぬ気にも・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・今から四年ばかり前、丁度日本では左翼の全運動が歴史的退潮を余儀なくされるに至ったはじまり頃の作である。 本屋へ行って、「女の一生」とだけ云ってたずねれば、店員はモウパッサンの「女の一生」を持ち出して来るのである。が、この傑作と同じ題をつ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫