・・・しかしその時はそれきりで、何を考えたという事さえ忘れてしまっていたが、その後二三日たったある日の夕方、駿河台下まで散歩していた時に、とある屋根の上に明滅している仁丹の広告を見るとまた突然この同じ文字が頭の中に照らし出された。あの広告のイルミ・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
「当世物は尽くし」で「安いもの」を列挙するとしたら、その筆頭にあげられるべきものの一つは陸地測量部の地図、中でも五万分一地形図などであろう。一枚の代価十三銭であるが、その一枚からわれわれが学べば学び得らるる有用な知識は到底金・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・戦争のために、この本の代価までが倍に近く引き上げられた事は、自分ばかりでなく多数の人の痛切に感じる損失であろうと思う。 この叢書の表紙の裏を見ると“Everyman, I will go with thee and be thy gui・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・「私たちの国がこの幸福を得るために高い代価を支払ったこと、また今度も支払わなければならないことは確かです。」 第二次大戦によってポーランドは再びナチスの侵略をうけ、南部ロシアのウクライナ地方とともに、最も惨酷な目にあわされた。し・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ 坂の下り口にかかると、非常に速力をゆるめ、いかにも、曲り角などの様子を気遣う工合でそのバスが行ってしまうと、いれ違いに、一台下から登って来た。 停留場を通りすぎそうなので、私はいそいでかけ出しながら片手をあげ、腰かけてから見ると、・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫