・・・然し私は話の次手にお得意先の二、三の作家へ、ただまんぜんと、太宰さんのが一ばん評判がよかったのだそうですね位のことはいうかも分りません。そうして、かかることについても、作家の人物月旦やめよ、という貴下の御叱正の内意がよく分るのですけれども私・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・然し私は話の次手にお得意先の二、三の作家へ、ただまんぜんと、太宰さんのが一ばん評判がよかったのだそうですね位のことはいうかも分りません。そうして、かかることについても、作家の人物月旦やめよ、という貴下の御叱正の内意がよく分るのですけれども私・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・と私は、小声で佐伯に教えた。太宰というのは、謂わばペンネエムであって、私の生まれた時からの名は、その木村武雄なのである。なんとも、この名前が恥ずかしく、私は痩せている癖に太宰なぞという喧嘩の強そうな名前を選んで用いているわけであるが、それで・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・と私は、小声で佐伯に教えた。太宰というのは、謂わばペンネエムであって、私の生まれた時からの名は、その木村武雄なのである。なんとも、この名前が恥ずかしく、私は痩せている癖に太宰なぞという喧嘩の強そうな名前を選んで用いているわけであるが、それで・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・その時、その人は興奮して本屋に出掛け、先ずこの雑誌を取り挙げ、ひらいてみると太宰なぞという、聞いたことも無いへんな名前の人が、先生顔して書いている。実に、拍子抜けがすると思う。その人の脳裡に在るのは、夏目漱石、森鴎外、尾崎紅葉、徳富蘆花、そ・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・その時、その人は興奮して本屋に出掛け、先ずこの雑誌を取り挙げ、ひらいてみると太宰なぞという、聞いたことも無いへんな名前の人が、先生顔して書いている。実に、拍子抜けがすると思う。その人の脳裡に在るのは、夏目漱石、森鴎外、尾崎紅葉、徳富蘆花、そ・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・ 太宰さん、御元気ですか。 何も考え浮びません。 無心に流れて、 そうして、 軍人第一年生。 当分、 「詩」は、 頭の中に、 うごきませんようです。 東京の空は? というのが、四通の中の、最初のお・・・ 太宰治 「散華」
・・・ 太宰さん、御元気ですか。 何も考え浮びません。 無心に流れて、 そうして、 軍人第一年生。 当分、 「詩」は、 頭の中に、 うごきませんようです。 東京の空は? というのが、四通の中の、最初のお・・・ 太宰治 「散華」
・・・という創作集なども出版せられ、太宰という私の筆名だけは世に高くなったが、私は少しも幸福にならなかった。私のこれまでの生涯を追想して、幽かにでも休養のゆとりを感じた一時期は、私が三十歳の時、いまの女房を井伏さんの媒酌でもらって、甲府市の郊外に・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・という創作集なども出版せられ、太宰という私の筆名だけは世に高くなったが、私は少しも幸福にならなかった。私のこれまでの生涯を追想して、幽かにでも休養のゆとりを感じた一時期は、私が三十歳の時、いまの女房を井伏さんの媒酌でもらって、甲府市の郊外に・・・ 太宰治 「十五年間」
出典:青空文庫