・・・九月初めにはソヴェト同盟にたいする無条件の歓喜に浸っていた彼が、十月には既に中傷している。使徒パウロからユダヤ人サウルへの拙劣な転身をした。驚くほど破廉恥な諸矛盾をその本の中にさらけ出している。党及び政府の一般的な方針に反対する批判の権利だ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・その新聞が官報であろうと、植民地版であろうと、中傷的なにせ写真をのせていようと、大新聞のゆくところ自由あり、と。すさまじいようだと云えないこともない。 小新聞の、大新聞への独占吸集が成功してから、大新聞の質は低下した。誰の目にも民主的と・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・が説明によって理解したところでは、民主革命の推進力である労働者階級を主軸としてその同盟者としての農民、勤め人、中小商工業者、近ごろはアルバイトの必要から勤労生活にとけこみつつある学生、これらを概括して「勤労者文学」の基盤とするといわれたよう・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 赤トランクは年の順に大中小とあって、おむすびもいくらか大中小に結んであったのかもしれない。 その切どおしの崖上に白梅園というところがあったり、その附近に芥川龍之介氏の住居のあることなどが話題になったのは、ずっとずっとあとのことであ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ドイツへの留学生を選抜するため農商務省でドイツ語の論文をかかせられ、一等になって、もう旅券が下りるというとき、あれは下島にしては出来すぎだ、兄が論文を書いたのだろうという中傷が加えられた。そして、二等だった誰かべつの人がドイツへ行った。下島・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・ その噂の元はと云えば、誰も知る者はなく、婆さんの耳元だけ、聞えたと感じた事もなかなか少なくないのである。中傷するほどの腕はないけれ共、自分の交際ばかりを次第次第にせばめて居るのである。「先生とこの奥様もこの上なしのぐうたらです・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・もとより、わたし一人の作品が民主主義文学の全部を代表するものではあり得ないし、一人の作家の一定の作品に革命的課題の全部――教育問題から土地革命、中小商工業者、民族資本家の問題まで盛ることも不可能です。今日の要求にこたえるべき階級的文学の多面・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・はサロンで二等になったにもかかわらず、若い娘の作品にしては立派すぎる、非常によいことが却ってさまざまな中傷を産んで、当然として周囲からも期待されていた金牌は、第三位の永年サロンに出品している芸術的には下らない画家に与えられたのであった。マリ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・ 日本では明治維新以来次第に銀行資本と産業資本の結合した独占資本の形は発達したが、生産の格式はおくれた半封建の中小企業を基礎とし、軽工業を基礎とし、植民地賃銀といわれる低賃銀で男女の勤労者を働かして来た。土地の関係も徳川時代と変りない地・・・ 宮本百合子 「三つの民主主義」
・・・フランスが反ファシズム運動としての人民戦線、文化擁護運動を世界に提唱したときから、すべての人民層は、インテリゲンツィア、中小工業者までをふくめて、自身の生存権のためにたたかわなければならなくなった。プロレタリア文学運動が、民主主義文学の運動・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫