・・・と、いままでペスの今後の相談をしていた、達ちゃんと正ちゃんは、そのほうの話を中止して、もっと、くわしいことを知るために、「政ちゃん、どこで、ペスを見たんだい。」と、まず正ちゃんは、たずねました。「橋のところで、遊んでいて、見たんだよ・・・ 小川未明 「ペスをさがしに」
・・・「今朝の葉書のこと、考えが変わってやめることにしたから、お願いしたことご中止ください」 今朝彼は暖い海岸で冬を越すことを想い、そこに住んでいる友人に貸家を捜すことを頼んで遣ったのだった。 彼は激しい疲労を感じながら坂を帰るのにあ・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・「急用なら中止しましょう」と紳士は一寸手を休める。「何に関いません、急用という程の事じゃアないんです。」と若主人は直ぐ盤を見つめて、石を下しつつ、「今の妹の姉にお正というのがいたのを御存じでしょう。」「そうでした、覚えていま・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・指端を弄して低き音の縷のごときを引くことしばし、突然中止して船端より下りた。自分はいきなり、「あんまさん、私の宅に来て、少し聞かしてくれんか」「ヘイ、ヘイー」と彼は驚いたように言って急に自分の顔を見て、そしてまた頭を垂れ首を傾け「ヘ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・彼等は一寸話を中止して、豚小屋の悪臭に鼻をそむけた。 それまで、汚れた床板の上に寝ころんで物憂そうにしていた豚が、彼等の靴音にびっくりして急に跳ね上った。そして荒々しく床板を蹴りながら柵のところへやって来た。 豚の鼻さきが一寸あたる・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・そして、電鉄が中止ときまってからは、地価は釣瓶落ちに落ちた。親爺は、もう、彼の力では、大勢を再びもとへ戻すのは不可能だと感じたのに違いない。彼は、なお、土地を手離すまいと努力した。金を又借り足して利子を払った。しかし、何年か前、彼に、土地を・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・博士はマッチの火で、とろとろ辻占の紙を焙り、酔眼をかっと見ひらいて、注視しますと、はじめは、なんだか模様のようで、心もとなく思われましたが、そのうちに、だんだん明確に、古風な字体の、ひら仮名が、ありありと紙に現われました。読んでみます。・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・私は、おもむろに、かの同行の書生に向い、この山椒魚の有難さを説いて聞かせようと思ったとたんに、かの書生は突如狂人の如く笑い出しましたので、私は実に不愉快になり、説明を中止して匆々に帰宅いたしたのでございます。きょうは皆様に、まずこの山椒魚の・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・先週の火曜日にそちらの様子見たく思い、船橋に出かけようと立ち上った処に君からの葉書来り、中止。一昨夜、突然、永野喜美代参り、君から絶交状送られたとか、その夜は遂に徹夜、ぼくも大変心配していた処、只今、永野よりの葉書にて、ほどなく和解できた由・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・したたかに自信を失い、観察を中止して船室に引き上げた。あの雲煙模糊の大陸が佐渡だとすると、到着までには、まだ相当の間がある。早くから騒ぎまわって損をした。私は、再びうんざりして、毛布を引っぱり船室の隅に寝てしまった。 けれども他の船客た・・・ 太宰治 「佐渡」
出典:青空文庫